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第18話

「……っ、くそ……本当に、ごちゃごちゃと鬱陶しい所だな……!」  すっかり日も落ち、ネオンの眩しい繁華街を走りながら、クリスは思わず舌打ちと共に独り言ちる。  自分が何処を走っているのかもわからないまま、人混みを掻き分けることに精一杯でどうにか此処までやってきた。  立ち止まって乱れた息を整えながら、何気なく来た道を振り返ってみる。  視界に入るのは忙しなく行き交う人、人、人。  その人波の中から、ジェドがクリスを追ってくる気配はまるでなかった。  車から転がり降りて、おまけに此処まで必死で走ってきたので服も汚れていれば、髪だって乱れきっていた。  普段ならこんな姿で外を出歩くなんてあり得ないのだが、通りすがりにクリスを横目に見ていく人間は居ても、誰一人、足を止めることなく通り過ぎていく。  クリス自らジェドの元を逃げ出してきたのだから、追ってこないことにホッとするべきところなのに、どうしてこんなにも胸が痛むのだろう……。  ざわざわと賑やかな都心の喧騒が、知らない街の中で却ってクリスを孤立させているような気がした。 「……薄情者め……」  寂しさを紛らわすように吐き捨てて、クリスは再び歩き出す。  昨夜も今朝も、用意された血の味がやはりクリスの口には合わなかった為、もうほぼ丸一日、まともに血を飲んでいない。おまけに今日は珍しく街中を走り回ったりしたお陰で、さすがに空腹感が酷かった。  ジェドが傍に居ない今、血を飲むならクリス自ら吸血するしか術はない。  次期当主候補のクリスは本来勝手に人間の血を吸うことは許されていないが、どうせ掟を破ってジェドからも突き放された身だ。  ……今更、決まりも何もない。  口許に薄く自嘲の笑みを浮かべたクリスは、目の前を歩く若い男に目を留めた。  ジェドには劣るが、そこそこ体格も良く、肌の色もやや紅潮していて健康そうだ。  幸い、丁度すぐ近くには、人通りのない路地裏への入り口がある。不意を突いて目線さえ合わせてしまえば、相手はすぐにクリスの意のままになる。そうして路地へ誘い込めば、後はもうこっちのものだ。  クリスの銀色の瞳が、捕食者のそれになってギラリと光る。  ……もっとも、男の肌が紅潮しているのはアルコールが入っている所為だったのだが、そうとは知らないクリスは、背後から男の肩に手を掛けると強引に振り向かせようとした。 「おい、お前」 「あァ……?」  相手が振り向くと同時に洗脳してしまえばいいと楽観視していたクリスだったが、酒に酔った男はクリスの予想に反し、振り返るより先にクリスの細い腕を不意にガシリと掴んできた。 「────っ!?」  常日頃、ジェドという頼もしいボディガードに護られていたクリスは、男の行動に咄嗟に反応出来なかった。  動転するクリスを余所に、男は掴んだままのクリスの腕を、振り向き様に思い切り捻り上げてくる。 「い……ッ!」  腕が軋む痛みから、つい目的も忘れて目を閉じたクリスを嘲笑うように、男が酒の臭いを含んだ呼気を吐く。そこでやっと相手が酒に酔っていることに気付いたが、時すでに遅しとは正にこの事だった。 「なんだァ、このガキ。誰に向かって『お前』だと?」 「っ、く……ッ、離、せ……!」 「テメェが先に絡んできたんだろーがよォ。最近のガキは口の利き方も知らねェみたいだなァ?」  腕を掴む指先に力が込められて、年齢ならクリスより遥かに年下であろう男に、ガキ呼ばわりするなと反論する余裕もない。 「うぁ……っ!」  本来なら男を引き込もうと思っていた路地裏にクリスの方が転がされ、落ちていたガラス片か何かで切れたのか、右腕に鋭い痛みが走った。  こんなはずじゃなかったのに。人間なんて、容易く思い通りになるはずじゃないのか────  ひとたまりもなく形勢が逆転したことで動揺するクリスの背が、男に容赦なく蹴り飛ばされた。 「ぐっ……!!」  衝撃で息が詰まって激しく咳き込むクリスに、男の下卑た嗤い声が降ってくる。 (ジェド……!)  これまでなら、こんな目に遭う前に必ずクリスの盾となってくれる存在が、いつも傍らにあった。  けれど此処でいくらその名を叫んでも、クリスを護ってくれるジェドは、もう居ない。  痺れるように痛む背中や、切った腕の痛みに、クリスは強く唇を噛み締める。  ……これ以上の痛みを、ジェドはこれまで何度、クリスの代わりに味わってきたのだろう。そして晴人を襲った自分は、今目の前に居る男のよう顔をしていたのだろうか。  こんな目に遭って初めて気づいたことの多さに、情けなさと虚しさが込み上げてくる。 「絡むならちゃんと相手は選べよォ、お坊ちゃん?」  男がそう言ってもう一度、今度はクリスの顔面目掛けて蹴り下ろしてきた脚を、本家で叩き込まれた護身術で辛うじてかわす。さっき蹴られた背中が軋むように痛んだが、それを気にする余裕もなかった。  男がよろめいた隙に渾身の力でその身体を突き飛ばすと、痛みを堪えて起き上がったクリスは「待ちやがれ、くそガキ!」と叫ぶ声を背中に聞きながら、再び夜の街を走り出した。  ────この街に、自分の居場所はない。独りでは、ただ食事の為に吸血することすら出来ない。  かといって、今の本家にもまた、クリスの居場所はないだろう。 (……なら、俺は一体何処へ行けばいい?)  走りながら絶望に宙を仰いだとき。見上げた視線の先に、闇の中でそびえ立つ背の高い建物が見えた。  見覚えのあるその建物は、滞在中、ジェドと宿泊していたホテルだ。  がむしゃらに走っている内に、どうやらやっと、見知った場所へ辿り着いたらしい。  ほんの少し気が緩んだ瞬間、全身から力が抜けそうになる。  血を与えてくれること。  身を護ってくれること。  目的の場所へ送迎してくれること。  それらは全て、常に当たり前のことなのだと思っていた。  だからこそ、空腹と怪我の痛みで倒れそうな状況でも堪えて歩くしかない今、そんな『当たり前』の有り難みを痛感する。  クリスは力の入らない足を引き摺るようにして、目的のホテルを独り、目指した。  兄が都心の繁華街を逃走していた頃。  帰国の為、ジェドが迎えにくるとアリシアから聞かされたレンは、何としてもそれを拒否する為、自室に籠城していた。  母が倒れたというのだから帰国は仕方ないとしても、アリシアとならともかく、どうしてよりによってジェドと一緒に帰国しなければならないのか。 「レン、いい加減駄々こねてないで出てきなさい」  ドンドンと、アリシアが廊下でひたすらレンの部屋の扉を叩き続けていたが、レンは「嫌だ!」と一蹴する。このやり取りが、もうかれこれ三十分は続いていた。 「ジェドとなんか絶対に帰らない! ジェドは兄さんの護衛だろ!? 今は兄さんの顔も、ジェドの顔も見たくない……!!」  屋敷に戻ってからも、脳裏にはレンを嫌悪して拒絶する晴人の顔や声が今もハッキリと焼き付いていて離れなかった。アリシアは、あの後すぐに近くを通りかかった教師を捕まえて上手く洗脳したらしく、晴人のことは頼んでおいたから心配ないと言っていたが、それでも最後に見た意識のない晴人を思い出すと、レンの胸から不安が消えることはなかった。  ……本当に、晴人の脚は大丈夫なんだろうか。  どうせ帰国すれば当分日本には戻れないだろうし、もしかしたらもう二度と、戻って来ることはないのかも知れない。それならレンのことは憎まれたままであっても、せめて晴人が、これまで通りサッカーに打ち込めるように……今のレンには、そう願うことしか出来ない。  さすがのレンも、晴人を傷つけた上、更にそれがレンの仕業だと思い込ませたクリスを、許す気にはなれなかった。  けれどジェドの護衛で帰国しろということは、つまりクリスと共に帰ってこいということじゃないのか。 「帰国するなら、俺一人で帰る。 ジェドとは帰らない……!」  断固拒否の意思表示に、レンは室内からドン!、と一度強く扉を叩き返した。 「気持ちはよくわかるけど、アンタの兄さんはジェドの護衛中に逃亡しちゃったんだから、仕方ないでしょ。お陰でワタシだって、あの生意気な問題児を、今から探しに行かなきゃいけないのよ?」 「……兄さんが、逃亡……?」  幼い頃から決して離れることのなかったジェドの元から……?  そんな兄の姿が想像できず、思わずレンは押し黙る。  すると図ったようなタイミングで、「ほら、そうこう言ってる間にジェドの車が来たわよ」と、観念しなさいとばかりのアリシアの声が聞こえてきた。  クリスが居なくなったのなら、ジェドがそのクリスを探すべきではないのだろうか。父は何故、ジェドやアリシアにそんなことを命じたのだろう。クリスとレンの兄弟仲を知らないはずはないのに……。  父はいつも優しく温厚で、レンは父のことも母のことも好きだったが、父はその温厚さ故に、時折考えがわからないときがある。とはいえ、いつもクリスやレンのことを想ってくれている為、父の言動や行動が最終的に悪い結果になったことは一度もないのだが。  そうこう考えている内に、いつの間にアリシアが迎え入れていたのだろう。コンコン、と控えめにノックする音がして、「レン様」とジェドの落ち着いた声が扉の向こうから聞こえた。  ビク、と肩を震わせて、レンは施錠した扉を見詰め、ゴクリと息を呑む。いつもジェドはクリスと対で居るイメージが強い所為か、ジェドの声を聞くと、レンはクリスと対峙したとき同様、どうしても身が竦んでしまう。 「レン様。当主様の命により、お迎えに上がりました。直ちに帰国して頂きますので、ご準備を」 「……帰国の件はわかった。でも、アイツの────晴人の怪我の状況だけは確認したい。それから、護衛も必要ない。心配しなくても、晴人のことが確認できたらすぐに帰国するから……」 「当主様からレン様の護衛を仰せつかっている以上、お一人で帰国させるわけには参りません。高坂晴人の件はアラン様に改めて確認して頂き、彼の容態がわかり次第、連絡して頂くよう手配致します」  ジェドはいつでも冷静沈着な男だというのは、本家に居た頃から知っていた。知ってはいたが、晴人が怪我をした上、その怪我を負わせたクリスは逃亡中だというのに、まるでそんな出来事とは無縁だとばかりに淡々と話すジェドに、レンは微かな苛立ちを覚えた。 「父さんの命令だとか、改めて確認させるとか、一体何なんだよ……。晴人が怪我した責任は、傍に居たジェドにだってあるんじゃないのか!?」 「その件に関しては、空港への車中にてお話させて頂きます。一先ず、ドアを開けて頂きたい」 「レン、そろそろ素直に言う事聞いた方がいいわよ」  アリシアが何やら少し焦った様子で促してきたが、レンはベッドにドサリと腰を下ろすと、そっぽを向いて吐き捨てた。 「……父さんの言う通り、国へは帰る。でも、ジェドとは帰らない」  レンの返答に「そうですか」と溜息混じりのジェドの声が聞こえてくる。やっと諦めてくれたかと思いきや、扉の外から「レン、ドアから離れて!!」と悲鳴にも似たアリシアの声がした。  何となく、この状況には既視感を覚えるような……とレンが扉の方へ視線を戻したその直後。  ズドン!!、と重く鈍い音が響いたと同時に、他の部屋よりも重厚なはずのレンの部屋の扉が、突進してきたジェドによって呆気なく突き破られた。 「ちょっと! 修理代、請求するからね!」  廊下で叫ぶアリシアは無視して、たった今扉をぶち破った張本人は相変わらず無表情なまま、呆然とするレンの前までやってきて、よく出来たロボットのように抑揚のない声で告げた。 「さあレン様、お仕度を」 「…………俺の周り、ゴリラばっかりだ」  逃げ場を失って、レンは絶望の溜息を零すと、観念して部屋の隅に転がっていたスーツケースに手を伸ばした。  ……いつかのあの日みたいに、この扉を破ってくれたのが、晴人なら良かったのに。  もう会えないかも知れないなんて思いたくはないけれど、クリスの洗脳が解けない以上、会ったところでレンはまた晴人に拒絶されるだけだ。  吸血鬼同士では相手を洗脳することは出来ないが、どうせ憎まれたままなら、レンの中の晴人の記憶も誰かが消してくれればいいのにと、零れそうになる感情を必死に堪えて強く唇を噛み締めた。  ジェドに背を向けたまま、適当に着替えやサプリをスーツケースに押し込んでいく。そうしてふと目に留まった、壁に吊るした制服────少し迷った挙句、レンはハンガーごとその手放し難い思い出を詰め込んで、静かにスーツケースの蓋を閉めた。 「晴人の怪我の具合がわかったら、すぐに連絡するわ。……きっと大丈夫だから」  ジェドの車にスーツケースを積み込んだレンの背を、アリシアが励ますようにそっと撫でてくれる。  アリシアと二人だった頃は、しょっちゅう言い争ってばかりの日々だったけれど、そこに晴人が加わるようになって、レンとアリシアの関係も、少し変わったように思う。  晴人と出会ったことで、アリシアや晴人のように、こんな面倒臭い引きこもりの自分の身を案じてくれる存在の有難さを知った。  まだコミュニケーションには不慣れではあるものの、体育の授業で倒れなければ称賛の声をかけてくれるようになったクラスメイトたちの声は、擽ったいながらも不快ではなかった。  ジリジリと暑い太陽や、体育の授業を好きにはなれそうにないが、ただ煩わしいだけだった学校も、漸くそうでもなくなってきていたのに────  晴人が屋敷に初めてやって来たのも唐突だったが、別れもまた、唐突だ。  ジェドがわざわざドアを開けてくれた後部座席に乗り込んで、レンは宿主を失くした殻のようになってしまった屋敷を見上げる。 「……晴人……」  無意識に漏れた呟きに気付いたアリシアが、開いた窓から手を差し入れてきて、レンの髪をくしゃりと掻き混ぜた。 「そんな顔しないの。いつもみたいに憎たらしくしてなさい。そうしたら、きっとまた晴人が叱りに来てくれるわよ。クリスにも、見つけたらたっぷりお仕置きしておくから、一先ずアンタは、義姉さんに顔を見せて安心させてあげて」  アリシアの言葉にレンが黙って頷き返すのをルームミラー越しに見届けてから、ジェドは静かに車を発進させた。  あっという間にアリシアの姿も屋敷も見えなくなり、車は暫く無言で走り続けた。  車内には、重い沈黙が流れ続けている。  そもそも本家に居た頃から、レンはジェドと会話らしい会話なんてしたことがない。こんな空気が本家に帰るまで続くのかとうんざりしかけたところで、不意にその沈黙を破ってジェドが口を開いた。 「……高坂晴人の件ですが」 「えっ?」  ぼんやりと窓の外を流れる景色に目を遣っていたレンは、突然の会話に驚いて運転席の男に視線を移す。 「私はクリス様の護衛という立場上、クリス様に指図することは出来なかったとはいえ、思い止まるよう説得しなかったことは私の過ちです。……クリス様を止められず、申し訳ございません」 「………」  口調こそ淡々としていたが、静かに謝罪の言葉を零すジェドの声には後悔の念が滲んでいて、レンは返す言葉に戸惑った。  機械のように冷淡だったかと思えば、いきなり謝罪なんて、ジェドの本心がわからない。  「……さっきまで、他人事みたいに冷たい言い方してたクセに、何でいきなりそんな風に言うんだよ」 「立場上、極力感情を抑えることを心掛けておりますので、どうもその癖が抜けないようです。他人事などとは思っておりません」 「でも、兄さんはジェドの傍から居なくなったんだろ?」 「ええ。走行中の車から飛び降りられるとは、さすがに私も予測出来ませんでした」 「走行中に飛び降りた!?」  プライドが高くて完璧主義で、醜態なんて絶対に晒したがらないあのクリスが、まさかそんな行動に出るなんて。それはさすがのレンにも想像出来なかった。一体何が、兄をそこまでさせたのだろうか。 「……兄さんのこと、何でそこで追いかけなかったんだよ。俺は、今回兄さんがしたことは許せないけど、ジェドは俺が生まれる前から、兄さんの護衛だっただろ。なのに、もうどうでもよくなったのか?」  レンがルームミラー越しにジェドを見詰めて問い掛けると、「まさか」とジェドはこの日初めて少しだけ口許を綻ばせて見せた。────いや、もしかしたら、レンは生まれて初めてジェドのこんな表情を見たかも知れない。そこには確かに、クリスへの愛情が滲んでいる気がした。 「私がクリス様の護衛を命じられたのは、クリス様がまだ五つの頃でした。その頃は私も当主様にお仕えしたばかりの身でしたが、今とは違って素直で愛らしい頃からずっと傍で見て居れば、情が芽生えぬ方が不思議というもの」 「……ジェドの口から『情』って言葉が出るとは思わなかった。いつも、兄さんの隣でも淡々としてる印象だったから……」 「私はあくまでクリス様の『護衛』でしたから、例え内に情があったとしても、それは表に出すべきものではありません。今回の件も、あのままクリス様を追えば、私は恐らくまた彼を甘やかしてしまう。だからこそ、当主様もそれを察して、今回私をレン様の護衛に充て、クリス様はアラン様に任されたのでしょう」 「ちょっと待てよ……。護衛『でした』って、もしかして、もう兄さんの護衛からこの先ずっと外れるってこと?」 「……掟を破られた方が、次期当主にふさわしいと思いますか?」 「それは……」  確かに、クリスは吸血鬼としての掟を破った。  レンは、掟がどうこうということではなく、単純にレンにとって大切な存在である晴人を傷つけられたことが許せないだけなのだが、父や一族からすれば、今回の一件は簡単に見逃せることではないのだろう。  けれど、クリスやジェドの気持ちはどうなのだろう。  このままクリスが次期当主としてふさわしくないとなれば、恐らくレンが当主候補になってしまう。  レンはそんなことは微塵も望んでいないし、父だってレンが当主に向いていないことなんて充分承知しているはずだ。  一方のクリスは、態度や行動などには問題があったにせよ、これまでずっと、次期当主になるべく教養や経験を積んできている。それに、クリスのことを語るジェドが見せたさっきの表情(かお)────あんな顔をするのに、ジェドは本当にこのままあっさりクリスの傍を離れてしまうのだろうか。  もしかして、クリスもそれを恐れて、ジェドの元から逃げ出したのだとしたら……。 「……こんなの、誰も望んでない」  膝の上で拳を握り締め、ポツリと零したレンに、ジェドがふと吐息だけで笑う気配がした。 「……レン様は、日本に移られたこの短期間で、随分と変わられましたね」 「え……?」 「私とこのように多く語って下さったことなど、かつて無かったかと。……貴方は、大事なものを見つけられたようだ」 「ジェド……?」  何処か寂しそうにも聞こえたジェドの呟きに思わずその名を呼び掛けたが、それっきり空港に着くまで、ジェドから言葉が返ってくることはなかった。

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