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第6話

品評会が始まった。 調教部屋はハロウィン仕様にデコレーションしてあり、いつも以上にその妖しさに拍車がかっている。 中央にある円いステージの周りを十数人の調教師とそのスレイブたちが取り囲んでいた。 やはりみな、思い思いのコスチュームに身を包んでいる。 当然、参加者は全員マスクを着用しクラブネームで呼び合っていた。 瑞希は新城の座る足元に敷かれた柔らかなラグの上に座らせられていた。 会場に入ってきた瞬間、瑞希は視線を集めてしまい自分の正体がバレてしまったのかと思って焦ったが、どうやら新城ことMr.Jのスレイブというものは大体いつも注目を浴びるものらしい。 自分がここのオーナーである事がバレていないことにほっとしたのも束の間、今度は隣から舐めるように見てくる男の視線に瑞希は苛々していた。 アメリカンコミックヒーローに扮している男はたしか有名な映画監督だ。 酷い飽き性と面食いで、私生活でもこのクラブでもパートナーを次から次へと変えている。 睨み付けてやりたい気持ちを必死に堪えているとその男にシャツを捲られた。 「美しいスレイブだな。こんな上玉のスレイブをどこで見つけた?」 白い足とショーツが晒されて、瑞希は思わずカッとなる。 「さ…「触るな」 瑞希が口を開くと同時に頭上から冷たい声が一瞥した。 「私のものに汚ない手で触るな」 マスク越しからでもわかる冷酷な眼差しにアメコミヒーローに扮した男が僅かに怖じ気づく。 しかしすぐに持ち直すとその口元にニヤリと意地汚い笑みを浮かべた。 「これはこれはMr.J。あなたともあろう方が随分スレイブにご執心じゃないか。そんなにそれは甘美なのか?」 人を物のように扱う口調と下卑た笑みに瑞希は鳥肌を立てたが、新城はポーカーフェイスを貫抜くと男を相手にしなかった。 品評会は淡々と進み、ステージでは鞭や蝋燭を使った調教が繰り広げられていた。 サディストたちは皆、酷薄とも恍惚ともいえる表情で自分のスレイブに調教を施している。 スレイブたちもまた、それを全身で受け止め痛みと快楽に陶酔しているように見えた。 瑞希はいつ自分があのステージに連れて行かれるのかとヒヤヒヤとしていた。 当然ながらあんな風に鞭で打たれたり蝋燭を膚に垂らされた事など一度もない。 もし、自分もあんな風にされたら我を忘れたようになってしまうのだろうか。 チラリと隣を見上げると、新城は鷹揚とした態度でその調教をじっと見つめている。 マスクの上からでもわかるその美貌を眺めていると、鞭や蝋燭を手に瑞希を責める淫靡な男の姿を想像してしまい身体の中心にじわりと熱が籠った。 バカな事を考えるな・・・ そもそもこの男が調教するのは瑞希だけに限らない。 この男に虐げらるのを待ちわびているスレイブは山のようにいて、いつ瑞希に飽きるかもわからないのだ。 ステージでは司会役の女が品評会終了の挨拶を始めた。 どんな調教内容か詳しく聞かされていなかった瑞希はイベントが終わりと聞いて心底ホッとする。 すると、突然隣の男が立ち上がり司会の女に物言いをはじめた。 「Mr.Jの調教がまだじゃないか」 男の声に会場内がシンと静まり、視線が一気に新城と瑞希に集まる。 仮面越しに飛んでくる好奇の眼差しに瑞希は思わず萎縮した。 「Mr.Jがこの新しいスレイブを調教している姿を見てみたいと思わないか?」 辺りが一気にざわつきだし、男に賛同する声があちこちから聞こえてくる。 「しかし本日は……」 司会の女が困惑ぎみに新城に目を配る。 するとそれまで黙っていた新城が口を開いた。 「構いませんよ。ただし、調教内容はこちらで決めさせてもらいますが」 男の挑発に乗らないだろう、いや乗ってほしくないと思っていた瑞希は驚いて新城を見上げる。 男は相変わらずポーカーフェイスを崩さず、まっすぐステージを見ていた。 男の心情を察することができず瑞希は不安でたまらなかったが、ここではNOと言える立場ではない。 ステージに登る新城の背中を追いかけるように、瑞希も震える一歩を踏み出した。

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