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第7話

『ブラインドテスト』 新城が提示した調教は目隠しをした状態で、自分の主人を見分けるというものだった。 鞭や蝋燭を使った調教内容ではなかったことにホッとするが、当然間違えれば相応の仕置きが待っている。 膝まずいた瑞希はクラブスタッフに両手を縛られながらそっと新城を見上げた。 男はやはり表情一つ変えず、鷹揚な仕草でアスコットタイを引き抜くと、不安げに揺れる瑞希の瞳を覆ってきた。 マスクの上からきっちりと隙間なく隠され、視界は闇に染まる。 一気に不安が増して思わず喉がひくりと鳴ってしまう。 「…瑞希なら大丈夫です」 目元を塞いだアスコットタイを結びながら、新城がそっと囁いてきた。 「何を根拠にそんなことを…」 気遣うような新城の言葉に、震えながらも悪態を吐いてしまう。 新城はクスリと笑うと、耳朶に唇を寄せてさっきよりももっと小さな声で囁いてきた。 「あなたは覚えているはずだ、私の全てを」 そう言うと、靴音を鳴らして遠ざかって行った。 「今から交代で七人のマスターがあなたに触れます。その中からあなたのマスターであるMr.Jを探し当ててください、いいですね?」 スタッフに静かにルールを説明され、瑞希はごくりと唾を飲みこむと頷いた。 「それでは最初の方、ステージへ」 司会の女がそう言うと、カツカツと靴音が近づいてきて瑞季の前でぴたりと止まった。 目を塞がれているため、相手の次の行動が予測できず怖い。 目の前の相手は瑞季の開いた胸元からゆっくりと手を忍ばせてきた。 肌を舐めるように這う手つきが酷く不快だ。 すぐに乳首を捉えられ、いきなり強く摘み上げられた。 「………っつぅ…………」 鋭い痛みに呻くとすぐさまもう片方の乳首もつねられて痛いくらいに引っ張られる。 「どうですか?あなたのマスターですか?」 司会の女の言葉に瑞季はふるふると首を横に振った。 あいつは、あの男はクラブ一のサディストだがこんな風にいきなり強く痛みを与えてきたりはしない。 いつもは瑞季をぐずぐずになるまで蕩かせた上で、甘い痛みを与えてじわじわと支配していくのだ。 瑞季の答えに、ステージの下からは感嘆の声が上がる。 「正解です。さすがMr.Jのスレイブ」 正解した事にホッとしたのも束の間、次の相手が触れてきた。 触れられているのは頬なのだが、何だかねとねとしたものがまとわりつき、触れた部分が濡れている。 それが唇を掠めた瞬間、瑞季はゾッとして顔を逸らした。 性器だ。 相手はあろうことか自らの性器を瑞季の顔に擦り付けていたのだ。 新城ならこんな下品な行為決してしない。 「……ち、違います…っ!」 執拗に擦り付けてくる相手を制止するように叫んだ。 次の相手も違った。 指先の動きが明らかに女性だったからだ。 次の相手が目の前に立った。 妙に鼻息が荒く、明らかに新城ではない事がわかった。 「…違いま…っんんっ!!」 いい終わる前に唇を塞がれた。 生暖かい舌が侵入してくると、執拗に絡んでくる。 きつい煙草の味と酒の臭いに吐き気が込み上げてきた。 気持ち悪い…!! 必死に抵抗してようやく離されると、今度はおもむろに股間を掴まれた。 「……ひぎぃっ……!」 いきなり急所を掴まれて悲鳴が出てしまう。 「いいなぁ、ほしいなぁ」 ぶつぶつと呟く言葉はやはり新城ではない。 その声の主の正体に瑞希は気づいた。 先ほど瑞希を舐めるように見ていた映画監督の男だ。 「やめろっ…!あんたは違う!」 必死に抗うが、それでも男は執拗に瑞季の股間を揉みしだき、ついにはスタッフによって引き剥がされていった。 散々弄ばれ、すっかり疲弊した瑞季の前にまた一人相手が立つ気配がした。 覚えのあるアトマイザーが鼻を擽る。 しかし、アトマイザーだけではわからない。 似たような香りをつけている人間は沢山いるだろうし。 最初に相手の手が触れてきたのは耳たぶだった。 繊細なタッチで撫でられ擽ったさに身じろぐと、今度は喉元に触れてくる。 慈しむような労るような優しげな手つきに、自然と身体の体温が上がってしまう。 その指先が唇に触れた時、甘酸っぱいようなぴりりとした香りが鼻腔を掠めた。 あ、シナモン… イベント前、手ずから食べさせてもらったシナモンアップルのキャンディを思い出す。 見つけた!! 「……っ………マ…………マスター………」 すぐさま、アスコットタイが解かれるとマスク越しに微笑んだ新城が映った。 安心したのか一気に力が抜けてしまい、崩れ落ちる身体を新城の腕が抱き止めてくれる。 「いい子ですね」 子どもを褒めるような言い方に、いつもの瑞希なら反抗して悪態を吐いていたはずだ。 けれど、暗闇の不安の中から新城を見つけ出したという歓びの方が勝っていて瑞希はその腕から離れたくないと思ってしまった。

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