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第3話
千花の言葉は一瞬、歩の思考を真っ白にさせた。
性的な対象ってどういう意味で言ってるのか分からず、一番頭のいい幸雄に視線を向けて説明を求めた。
「つまり、恋愛対象として見てる。ずっと長い間、三人が三人とも」
「恋愛、対象……」
恋人になった二人がいつかは身体の関係を結ぶ様になる事はいくら恋愛経験ゼロで童貞の歩にも分かる。千花の言う性的な対象とはそういう意味で、自分がこの三人からそんな目で見られていたなんて今の今まで気が付きもしなかった。
「え、だって……僕、男だよ? え……? 何かのドッキリ、とか?」
混乱する歩を見て、後でネタばらしが待っているのではと考えた。イタズラ好きな千花なら歩を驚かせようとしてもおかしくはない。けれど、こういう人の気持ちを弄ぶ様なイタズラはしないタイプだ。
「お前が男だって事は小学生の頃からちゃんと知ってるよ。それでも好きになったんだから仕方ねーだろ」
ぶっきらぼうに言う亮の顔は少し赤かった。この顔を歩はよく知っている。照れているのを必死で隠そうとしている時の顔だ。全く隠せていないけれど。
「でも……なんでそんな、いきなり……」
今まで四人で仲良くやってきたではないか。それを急に恋愛対象として見ていたと言われてもどうしたらいいのか分からない。
「俺達、社会人になってから忙しくてなかなか会えなくなっただろ?」
幸雄が握ったままの手に力を込めた。
「このまま忙しくしてれば歩への気持ちが薄まっていくかもしれないって思ってた。きっと四人全員、これからも仲良くやっていくならその方がいいんだろうって」
「……そうだよ、何で……?」
真ん中に窮屈そうに座る千花が綺麗な顔で切なそうに微笑んだ。その表情に歩は思わず見惚れてしまった。
「薄まっていかなかったんだよ、歩。逆にどんどん思いが膨らんで歩に会いたくておかしくなりそうだったんだ」
「……千花……」
忙しくて会えないのは歩も寂しかった。でもそれは千花の言う寂しさとは全く強さの違うものだ。
「何をしても歩の事ばかり考える。ちゃんと飯食ったかとか、コンビニばっかりで済ませてないかとか、オレがいたら毎日美味い飯食わせてやるのにって」
「そりゃ、亮のご飯は毎日食べても飽きないし、毎日食べれるなら嬉しいよ! でもいきなり過ぎて……僕、どうしたらいいのか……」
好きだと言われたからにはきちんと返事をするのが礼儀だろう。けれど恋愛経験の乏しい歩が突然、一度に三人から、しかも長年の親友から告白されて冷静でいられる訳がなかった。
これが女の子なら少しは違ったかもしれない。少なくとも同性という問題で悩む事はなかった。
そもそも今まで恋愛対象は女の子だったのだ。親友の男が三人並んで告白してくるなんて予想出来るはずがない。
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