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第4話
「歩、混乱してるのは分かる。だけど、考えてほしい。男同士で付き合うのに抵抗があるなら全員を振ってくれればいい。もし、三人のうちの誰かを特別だと思えるなら、他の二人の事は気にせずにその一人を選んでくれればいい」
幸雄の言葉は、とても難しそうに聞こえたが内容は簡単なものだった。
誰かを選ぶか、誰も選ばないか。二つに一つだ。
「でも……どっちを選んだとしても、今までと変わらずに友達でいる事は無理」
千花は相変わらず綺麗な顔で微笑んでいた。その微笑から発せられた言葉はとても冷たく、残酷で、歩の身体は小さく震えていた。
「オレ達は友達の仲を引き裂いてでも歩が欲しい。手に入らないならもう傍にいるのは辛い。そのくらい歩が好きなんだ」
自分のどこにそこまで言わせてしまう魅力があるのか全く分からない。恋愛対象になるような行為をした事もなければ、誤解させるような言動をした覚えもない。
だだ一つ分かるのは、こちらの気持ちを無視して三人が友達をやめようとしているということ。その決定権を歩が持っているということ。
「僕は、ずっと友達でいたかったのに……」
やっと振り絞って出た声に、三人がそれぞれ「ごめん」と呟いた。
まともに恋愛をした事のない歩には難しすぎて今すぐ答えを出せるような心境ではなかった。出来ることなら聞かなかった事にしてこの場を立ち去りたい。
「歩、今すぐじゃなくていいから、ゆっくり考えてみてほしい。俺達は歩の決断に従うから」
「そんなのっ……」
そんなのはズルい。一方的に気持ちをぶつけられただけではなく、その責任を自分にだけ押し付けているみたいで。
でもそれだけ三人は切羽詰まった状態なのだ。余裕がなくなっているのだ。
いつも涼しい顔して何でもこなすこの三人が、泣きそうな顔をするくらいには。
そのくらい真剣に思われている。その事は単純に嬉しく思う。誰かを選んだりする必要がないのなら、もっと心から嬉しいと思えるのに。
「……こんなの選べるわけないよ……。どれを選んでももう友達じゃいられないなんて、そんなの嫌だよっ……」
三人が三人共、真剣な眼差しで見つめてくるから苦しくなって歩は握っていた手を振りほどいて席を立った。
本当なら久々に四人で美味しい食事をしながら近況を話して楽しんでいた筈なのに、それももう出来ないのかと思うと哀しくて泣きたくなった。
恋愛に対して、少しばかり憧れがあった。特別な事はなくてもいいから、お互いを大切に支え合える関係を築きたいと。自分と同じように平凡で目立たない人生でも、一緒なら幸せだと思える優しい恋がしたいと思っていた。
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