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第7話
「この前の話なんだけどさ」
「うん……」
「いきなりでビックリしたよね?」
「うん……」
自分は他人の気持ちに鈍い方だとは思っていた。周りに千花や幸雄や亮がいて、彼等は他人の気持ちに敏感に反応するから余計にそう思う。
鈍いから三人の気持ちに気が付かなかったのか、それとも三人が全くそんな素振りを見せてこなかったのか。甘やかされているとは分かっていたのにそれが友情以上の好意からくるものだとは考えもしなかった。
「オレ達もさ、言うか言わないか悩んだよ。歩には幸せになってほしいしもん」
「僕だって皆には幸せになってほしいよっ……」
その気持ちに嘘偽りは一つもない。例えば誰かが結婚して子供が出来たとしたら、とても嬉しいし全力で祝福する。
「なんで僕なの? こんな、何の取り柄もない平凡な……しかも男なのに。千花だって、幸雄だって亮だって凄くモテるのに、僕じゃなくてもっと……」
「歩がいいんだよ」
歩の言葉を遮って、千花は笑ってそう言った。
「オレ達、歩を好きになった時期は別々だし、歩を独り占めしたくて堪らなかったけど、歩が四人でいる事を大切にしてるの知ってたから告白はしないつもりだったんだ。歩に彼女が出来て結婚しても、友達ならずっと一緒にいられるだろ?」
「そうだよ……僕だって同じ事考えてたよ?」
その根底が恋心ではなくても、幸せを願う気持ちは同じだ。
「それでもさ、歩が悩むって分かってても、好きな気持ちが消えないんだ……」
「千花……」
こんな切ない千花の表情を見たのは初めてだった。
千花は四人の中ではムードメーカーで、いつだって明るくて、性格がバラバラな四人を一つに纏めるのが上手かった。千花に任せておけば幸雄と亮が喧嘩をしても翌日には仲直りが出来ていた。
「ダメだって分かってる。だけど歩以外じゃ満たされないんだ……」
スラリと長い腕が伸びて歩を抱き寄せた。
秋風で少し冷えた頬が歩の額を掠めて、胸が苦しくなる。
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