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第11話

 ***  気が付くと自分の口唇に触れてあの日のキスを反芻している事が多くなった。  キスをきっかけに千花を意識する様になり、これが恋というものなのかと悩んだ。それともキスの経験がないから気持ちが浮ついているだけなのかもしれない。学生時代にもっと恋愛に興味を持っていれば良かった。それならきっとこの取り留めのない感情の名前がわかったのに。  今は仕事に集中する事で何とか誤魔化しているけれど、仕事が終われば途端に思い出す。  千花だけじゃない。幸雄や亮の事もちゃんと考えて答えを出さなければ。  いつまでも待つと千花は言ったが、待たせ過ぎる訳にもいかない。  自分の心なのにこんなにも理解出来ない問題が発生するだなんて。人を好きになるという事の凄さを実感する。 「歩」  溜息を吐きながら職場を出て帰路に着く為に駅へと向かう歩に、車の中から声を掛けたのは幸雄だった。  高そうな車の運転席から隣に乗るように手招きをする幸雄に、少し戸惑いながら助手席に乗り込んだ。 「もう仕事、終わったんだろ?」 「うん、帰るとこだった」 「じゃあ、送るよ」 「うん、ありがと」  幸雄の車に乗るのは久しぶりだった。四人でどこかに出掛ける時はいつも亮が車を出してくれていたから、幸雄の運転姿を見るのも久々だ。  通勤用に使っていると以前言っていた。あまり車に詳しくない歩でも知っている有名な車種で平凡なサラリーマンの歩の給料では手が出ない値段。それを乗りこなす幸雄は同い年とは思えない貫禄があった。

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