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第13話
「歩は自分を低く評価しすぎだ」
「でも、僕は幸雄がいなかったら就職も満足に出来なかったかもしれない。勉強だって教えて貰わなきゃわからなかったし、幸雄に比べたら全然ダメで……」
「ダメなんかじゃない」
視線は真っ直ぐ前を向けたまま、幸雄はきっぱりと歩の言葉を遮って否定した。
「俺がどんなに教えたって本人にやる気がなけりゃ意味がない。歩が今、ちゃんと働いているのも俺が歩を好きなのも、歩が一生懸命努力してきた結果だ」
幸雄の言葉にはいつも説得力があって、千花も亮も、そして歩もその言葉に絶大な信頼を抱いていた。
その幸雄がそうやって自分のことを評価してくれている。それはとても嬉しくて、これまで頑張ってきた事が一気に報われた気がした。
「ちゃんと見てたから知ってる。歩がどれだけ頑張って勉強してきたか。俺が一番知っている。だからもっと自信を持っても良いんだ」
何故か何も言えなくなった。胸がいっぱいで言葉を口にしたら涙が出そうだった。
平凡で、毎日変わらない日々を過ごしていて、唯一の自慢は親友三人の存在。
一人だととてもちっぽけで退屈で目立たない自分をちゃんと見てくれている人なんていないと思っていた。自分自身でさえ冴えない人間だと感じていたくらいなのに。
「俺は千花や亮みたいに気の利いた台詞は言えないし、勉強ばかりしてきたから頭も硬い。友達なんていらないと思ってた、歩に会うまでは」
歩の住むマンションの前まで着いて、車を路肩に停めるとシートベルトを外して体重を背凭れに預ける。眉間を指で押さえながら、ふっと息を吐いて無言のままの歩に視線を移す。
千花がいるからそれに隠れてしまうけれど、幸雄も端正な顔立ちをしている。千花とは別の類いの綺麗な切れ長の目と筋の通った鼻、骨張った手や凛とした姿勢。
千花が中性的なら、幸雄はどこをとっても男らしくて威圧感さえ感じさせる。
「他人の気持ちを理解出来ずにきつい言葉で正論ばかり振りかざす嫌な子供だったと自分でも思う。他人を見下して、独りでいる事が正しいのだと……」
「そんなことっ……。幸雄は周りをいつもしっかり把握して皆に分かりやすく伝えてるだけだよ! 人を束ねる力があるんだ。カリスマ性を持ってるんだよ! それにっ……」
学生の頃も、行事での話し合いをする際はどこのクラスよりも早くクラスメイトの意見を纏めて、それぞれの役割を割り振って効率良く回していた。
ただの目立ちたがり屋や仕切りたがり屋なんかじゃない。それは天性の才能だ。
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