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第15話
腕の中で、じわりと涙が溢れた。
こんなに誰かに思われる事なんてもう二度とないかもしれない。
誰よりも一番、自分を護ってくれる相手。
「待ってるから、歩の答えを」
「うん……わかった……」
腕の中から離れると、目にためていた涙がすっと頬を伝って流れた。
友達には戻れない。けれど今生の別れではない。自分が諦めなければきっと何度だって会う事が出来るはずだと強く信じた。
流れ落ちた涙を幸雄の口唇がそっと受け止めて舌で舐めとった。
いきなりの事に舐められた頬を手で押さえて幸雄を見ると余計に恥ずかしくなって顔が赤くなる。
「歩、可愛い」
「かわっ……」
男に可愛いなんて失礼だと抗議しようとした口唇はあっという間に幸雄の口唇に塞がれ、声は飲み込まれてしまった。
「んっ、ゆき……お……」
こんな強引なキスをするだなんて知らなかった。
可愛いだなんて言葉を使うようなタイプではなかったはずなのに、恋は人を変えてしまう。
寡黙な幸雄を饒舌にしてしまうくらいには、この気持ちは熱くて重い。
「あゆむ……好きだ、歩」
けれどその気持ちの重さが心地よく感じる。
この甘くて蕩ける様なキスをもっとしたい。
千花とのキスとは全く違うキスに頭の中は混乱しているのに、快楽を拾おうとする本能だけは欲深い。
「……これ以上は、止められなくなるから……」
そう言って、ゆっくりと名残惜しそうに離れていく口唇。
惚けた目で口唇を追って、まだあともう少し、と強請りそうになるのを必死で堪えた。
答えを出してないままで自分から強請る訳にはいかない。これ以上を望むなら幸雄を選ぶ必要がある。
「……じゃあ……その……送ってくれてありがとう。あの……おやすみ」
幸雄に背を向けて助手席のドアを開ける。
外の空気がさっきまでの甘い雰囲気を打ち消していく。
「おやすみ、歩」
助手席を閉めると窓を開けて幸雄が歩の後ろ姿に声を掛けた。窓が閉まる音がして車が動き出す。
幸雄の方に振り向けないまま、歩はしばらくそこに佇んでいた。
二人分のキスの余韻が消えない熱に変わっていくのを感じながら。
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