16 / 41

第16話

 ***  亮が新作のメニューを考えた時には必ず試食に呼ばれていた。  亮が作る料理は畏まった物ではなくて、どこか懐かしい雰囲気のする優しい味。レストランも堅苦しい造りではなく、誰でも気楽に入れる様な少しだけ洒落ていて、少しだけ和やかな店構えをしている。  月に数回はこの店に来てバランスのいい食事をするのが楽しみで、幸雄や千花と予定が合ったら四人でテーブルを囲んで過ごす。  それももう出来なくなるのか、と店の前までやって来て看板を眺めながら物思いに耽った。  仕事中に亮からメッセージが来て、試食をしてほしいと頼まれた。試食は歩だけの特別な時間で、いつもは早く仕事を終わらせて上機嫌で店まで向かう。けれど今は四人の関係が複雑で断ろうかとも思った。  タイミングが良いのか悪いのか、残業をする事になって亮への返事もしそびれた。終業後に残業だったと慌てて返事をすると、まだ店に居るから待ってると返信があった。  待たれていたら断りづらい。それに千花と幸雄には会って話をしたのに、亮だけ会わないのは不公平だとも思って店までやって来た。  店は既に看板の灯が消えていて閉店していたが、中は灯がついていて亮が待っているねだと外からでも確認出来た。  一つ深呼吸をしてから店の扉を開けると、厨房の中から亮が出て来て「おつかれ」と言って明るく笑った。  その笑顔に何故だかホッとする。好きだと言われた後でも亮の明るい笑顔は変わらない。幼馴染三人の中で一番ぶっきらぼうで、無表情でいると怒っている様に見える亮が本当はとても面倒見が良くて、責任感が人一倍あるのを歩は知っている。 「今、用意するから座って待ってろ」  カウンター席に促されて座って待っていると厨房の方からいい匂いがしてきた。  そういえば最近、三人の事で悩みすぎて食欲が出なくて満足に食べていない。匂いにつられて腹の虫が大きく鳴り出した。 「はい、お待たせ。デザートもあるからな」  器の中で湯気をあげる見た目も美味しそうな料理に、ゴクリと唾を飲み込んだ。グラタンとサラダ、それに五穀米。亮が拘って仕入れているチーズが溶けて焦げ目をつけている。 「いただきます」 「はい、どうぞ」  歩の隣の席に座って、亮は頬杖をついて歩が食べるのを黙って見ていた。見られている事に最初は緊張していた歩も、一口二口と食が進む度に気にならなくなった。それくらい亮の作った料理は美味しくて、あっという間に平らげてしまった。

ともだちにシェアしよう!