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第17話
空になった器を下げに厨房に入っていった亮が、今度はデザートの盛られたプレートを歩の前に置いた。
「三種類のデザートプレートを今度から出してみようと思ってるんだ。最近、若い子の来店が多いからこういうのメニューにあるといいだろ?」
「うん、美味しそうだし、可愛い。女の子ならきっと喜ぶよ」
甘さ控え目なケーキと、少し苦味があるチョコのケーキ、後味のさっぱりしたジェラート。どれをとっても美味しくて、さっき試食でしっかり食べた後なのにきっちりと完食した。
「お前はホント、いつも美味しそうに食べるよな」
「だって美味しいもん」
お世辞でも何でもなく、本当に亮の作る料理は世界一美味しい。
カップラーメンもコンビニ弁当も簡単で楽だけれど、やはり手の込んだ料理には適わない。
それに子供の頃から亮の作る料理を食べて来た。母子家庭でいつも忙しく働く母親を助けようと料理を覚え始めた亮。それが亮の天職だった。
「ほら、口元にクリームついてるぞ」
「え、どこ?」
「ここ」
不意に伸びてきた亮の指が口唇の端に触れる。
昔からそうやって口元についたご飯やソースを拭ってくれていた亮の指。まるで母親と子供みたいだとクラスメイトによく揶揄われていたけれど、今夜は何かが違った。
触れた先が一瞬で熱くなって、亮の指先についたクリームから目が離せなかった。
この手があの料理やデザートを作る。繊細で大胆で優しい味のする料理を。
指先のクリームを当たり前の様に舐めてしまった亮の仕草が色っぽく感じて、お酒も飲んでないのに身体がフワフワとしてきた。一瞬だけ触れた場所から熱が広がってのぼせてしまいそうだ。
「ちゃんと飯食ってるか? オレ達があんな事言い出したから悩んで食欲なくなってないか?」
「そんな事は……」
亮に嘘は通じない。元々、嘘や隠し事をするのが苦手な歩だけれど亮にだけはどんなに上手に取り繕ってもバレてしまう。
それは亮も嘘をつけないタイプの人間だからだ。その真っ直ぐで力強い目で見られると、どんな小さな嘘でも白状してしまう。幸雄や千花は嘘がバレていても知らないフリをしてくれるけれど、亮だけはそれを許さない。
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