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第18話
「まぁ、悩ませてるのはオレ達だからな。それは悪いと思ってるけど、食事はしっかりとらなきゃダメだ」
「うん、気をつける……」
「なんたってオレはお前に食べて欲しくて料理してんだからさ。その本人が食欲ないと困るだろ?」
歩の頭を撫でながら苦笑する亮。
触れられると胸が高鳴る。髪の先まで熱くなっていく。きっと顔も赤い筈だと思い、俯いて顔を隠す。
「僕にじゃなくて、お母さんのためでしょ?」
ドキドキしながら何とか振り絞った声は少し掠れてしまった。
「最初はそうだったけどなー、母さんも今は再婚して楽しくやってるみたいだし、もうオレが飯を作る必要はなくなったからな」
「そっか、元気にしてるの?」
「元気、元気。あれは長生きするな。再婚相手と旅行した写真やら土産やらうちに送ってくるからオレの部屋が各地の土産物で溢れてるよ」
亮の母親が再婚したのは高校を卒業して直ぐの頃。亮は調理専門の学校に進学して一人暮らしを始めた。専門学校に通いながらバイトしていたレストランのオーナーに腕を買われて卒業後数年、本格的に料理を教わってから独立して今の店を開いた。
四人の中で一番、苦労してきたのは亮かもしれない。みんな、それぞれに大変な事はあっただろうけど父親がいない事で金銭的にも精神的にも負担は大きかっただろう。
それを全く表に出さずに、水面下で努力して一国一城の主となった亮を歩は心から尊敬している。
「今は……そうだな、高校で弁当作ってたあたりからは歩の為に料理してたかな。あれからずっと、歩に美味しいって言われたくて作ってるんだ。もちろん、お客さんにも感謝してるけどな? 一番に食わせたいのは歩だから」
「そう、だったんだ……」
心を満たしてくれる数々の料理。それが自分のたった一言の為に作られていたなんて。
一体、どれだけ亮は自分の事を思ってくれているのだろう。それはとても深い思いではないか。
「誰を選んでもさ、飯は食いに来いよ。友達には戻れなくても、客としてさ」
「……うん」
だけど、亮以外の誰かを選んだらここにはもう来れない。たとえ客としてでも平気な顔して、自分の為に作ってくれた食事を食べる事なんて無理だ。きっと亮の事も酷く傷付けてしまう。
「お前が美味そうに食べる顔が大好きなんだ。その顔に惚れた。だからたとえ選ばれなくてもオレはこの先も美味そうに食べる歩の事を思いながら料理すると思う」
「亮……」
どうしてこんなにも深く思ってくれるのか、歩には理解出来なかった。
千花も幸雄も亮も、こんな平凡な男の何がいいのだろう。
それぞれと話して、好きになるきっかけを知ったけれどそれでも友情を壊してまで思われる魅力を自分に見い出せない。
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