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第19話
「やっぱり……選ぶなんて出来ないよ……」
ずっと仲良くしてきた親友と決別するなんて考えられない。このまま歳をとっても一緒につるんでいられると信じていたから。
「歩、難しく考えなくていいんだ」
俯いた歩の顔を隠すように流れる髪を耳にかけて、ゆっくりと亮は自分の方に歩を引き寄せた。
「オレ達はどんな答えでも歩を恨んだりしない。むしろ、三人で勝手に告白する事を決めたからオレ達が恨まれる方だ。お前はお前自身が気が付かない所で、オレ達三人をそれぞれに救ってくれたんだ」
「そんなのわかんないよ……」
コックコートのままの亮の胸にすっぽりとおさまったまま歩は目を閉じた。
千花にも幸雄にも抱き締められた。その度に胸がドキドキしてそれまでとは明らかに違う感情が芽生えた。
亮の腕の中もそうだ。煩いくらいにドキドキが止まらない。けれど嫌悪感は全く感じず、もっとこうやっていたいと思ってしまう。
「オレ達は歩が笑っていてくれるならそれでいいんだ。だから、笑っててほしい」
腕の中から亮の顔を見上げると、亮の手が歩の頬を包んだ。
優しく微笑む亮に、歩も笑顔を見せた。
「やっぱり、歩は笑ってる方がいい」
そう言って歩の口唇に重なってきた亮の口唇。
それはごく自然に交わされた幸せな気持ちにさせるキスだった。
相変わらずドキドキは止まらないけれど、亮の舌が歩の舌を絡めとる頃には頭の中がボーッとしてドキドキする胸も心地よく感じていた。
溶けてしまうと思って無意識にコックコートを掴んで握り締める。
さっき食べたケーキよりも甘いキス。このままこうやって溶けるまで口付け合いたい。それなのにその甘い口唇はそっと離れていってしまう。名残惜しむ様に絡めた舌から唾液の糸が伸びて光った。
「あんまりエロい顔すんなよ。押し倒したくなるだろ……」
そんな顔をしているつもりはないのに亮の目からはそう見えるのだと思うと恥ずかしさが込み上げてきた。
「あ……あの、僕……そろそろ帰る、ね」
急に羞恥心でいっぱいになっていても立ってもいられなくなり、席から立ち上がる。
「……わかった。気を付けて帰れよ」
「う、うん。じゃあ、また……」
歩の顔をまともに見れないまま、逃げるように店から出た。羞恥心なのか、キスのせいなのか、火照った身体に秋風が吹いて熱を冷ましていく。
早足で歩き家に辿り着いた頃には熱は冷めていたけれど、胸の中に生まれた何かが疼いてなかなか寝付けないまま朝を迎えた。
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