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第2話【修正】
再び歩き出したたっくんの後ろについて歩いて、尋ねた。
「……たっくんってさ、山野さんのこと好きなの?」
「好きじゃないよ」
「じゃあ、どうして、あんなに色々チョコの注文したの?」
「口封じかな? 山野さん、油断ならないから」
「口封じ?」
「俺がボソボソ喋っちゃうと、山野さんとまーくんが話しちゃうでしょ? それが嫌だったの」
たっくんは笑顔でそう答えたが、僕は聞けば聞くほど、よく分からなかった。
山野さんと僕と会話させたくなかったって、それって、嫉妬?
そう考えただけで、胸がチクリと痛い。
僕は堪らなくなって、たっくんに質問した。
「もし……、もしだよ、山野さんが付き合ってっていったら、付き合うの?」
「そりゃ、付き合うよ。……どこまでもね」
即答だった。たっくんは、どこか挑戦的な瞳で遠くを見ていた。
(僕のこと、一番好きだって言ったくせに)
どす黒い気持ちを抑えながら、僕は俯いて歩いた。
下足室に着くなり、たっくんは明るい声で尋ねてきた。
「それよりさ、山野さんに言ったさっきのチョコの注文、覚えてくれた?」
どこか期待の込められた声にすらイライラしてしまう。
僕はぶっきらぼうに答える。
「えーと、甘さ控えめだっけ」
「そうそう」
「あと、お酒も控えめで……、あと何言ってたっけ?」
「最後が一番大事だよ!」
「手作りならなんでもいい。はい、復唱」
パンッと手を叩いて、たっくんは僕を促した。仕方なく、僕はたっくんの言葉を繰り返した。
「手作りならなんでもいい」
たっくんは満面の笑みで頷いている。そして、無言。
その笑顔は確実に僕に何かを求めている顔だった。
「えっ、何、この空気。作らないけど!」
「えっ……」
たっくんの顔から笑みが消え、持っていた上履きを落とした。信じられないという顔で、立ち尽くしている。
「僕、君に一度もチョコ作ったことないよね?」
「今年はくれると思ったのに……」
肩を落として、先に行ってしまった。その背中に向かって小さく呟いた。
「……山野さんに作ってもらうんだから、十分でしょ」
一人心地に呟いて、虚しくなった。
泣きたい気分だった。
でも、泣く理由がなかった。幼馴染に好みの女性が分かっただけだ。
僕は奥歯を噛み締めて、悲しさを紛らわせた。
(僕の気持ちも知らないで、ひどいよ、たっくん……)
悲しみと同時に、たっくんに対して怒りもこみ上げてきた。
そして、僕は一つの決心をした。
「作るよ。作ればいいんでしょ」
悲しみに満ちたたっくんの背中にそう宣言すると、彼は嬉しそうに振り返った。
僕はその笑顔を見ながら、内心、ほくそ笑んだ。無邪気なたっくんに対する下らない復讐を思い描いていたのだ。
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