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第4話【修正】
チョコを渡すタイミングを失ったまま、昼休みを迎えてしまった。
たっくんは相変わらず、モテモテで、休み時間のたびに女子からチョコを貰っていた。
いつも通り、たっくんと一緒にお昼を食べにいこうと教室に迎えに行ったら、たっくんがちょうど廊下に出ようとしていた。
たっくんは周りを気にして、気配を消しているようだった。僕と目が合った途端、たっくんは喋る代わりに、ジェスチャーで食堂の方向を指差した。しかし、そんなたっくんの努力もむなしく、女子の黄色い声が廊下を響かせる。
「田村くんー!」
たっくんはあからさまに顔をしかめると、僕の手を取って走り出した。
「まーくん! こっちきて」
「わ、ちょっと」
手を引かれ、女子たちから逃げるように、僕たちは人気のないところを目指して走った。
行き着いた先は、普段は使われていない空き教室。ちょっと埃っぽい空気を変えようとたっくんは窓を開けた。冷たい風が吹き抜ける。
「やっと二人になれたね」
たっくんは窓際の席に着いた。隣の席に僕が座ると、もっと近づくよう机を寄せてきた。
「今日は、全然まーくんと話せなくてごめんね」
「……別にいいけど」
なんだか、改めてそんなことを言われると、妙に照れてしまう。僕は伏せ目がちで呟くと、たっくんは僕の髪を柔らかく撫でた。目が合うとたっくんはいつものように微笑んだ。
「お昼食べよっか」
たっくんはそう言うと、鞄からお弁当を取り出した。
僕の鞄の中には、まだたっくんに渡すつもりのチョコが残っていた。
(渡すなら、今だよね)
「あ、あの、たっくん……」
「なに?」
「チョコ……、作った」
僕は、安っぽい包装紙で包まれた小さな箱を取り出して、机の上に置いた。
「嬉しい」
たっくんは呟いた。口から溢れた。そんな感じの言葉だった。
たっくんの両腕が伸びて、僕を捕えた。
「ありがとう!」
ぎゅっと抱きしめられたたっくんの体温を感じて、僕はドキドキした。
宙に浮いたまま彷徨っている自分の両腕がもどかしい。
(僕も手を回した方がいいのかな。あれ、今までたっくんに抱き締められた時、僕はどうしてたんだろう)
そんな事をうだうだと考えてる間にたっくんは、体を離してしまった。
「食べていい?」
「お弁当は?」
「先にまーくんのチョコ食べたい」
たっくんはそんな子供のような事を言うと封を開けてしまった。中には星型のチョコレートが並んでいた。唐辛子を入れすぎたせいで、ちょっと赤黒い。
「これ、本当にまーくんが作ったの?」
「作ったって言っても溶かして固めただけだよ」
(そして、唐辛子を混ぜた)
「それでも、嬉しいよ」
僕の思惑に気づくはずもなく、たっくんはその大きな口でチョコにかじりついた。
幸せいっぱいのたっくんの顔がみるみる青ざめていった。そして、むせてた。
(やっべ、入れすぎたかな?)
笑いを必死に堪えていたが、ほんの少し心配になった。
たっくんはペットボトルの水を喉を鳴らして飲むと、ようやく落ち着いたようで、戸惑った目で僕を見た。
「ねえ……、まーくん、このチョコ……」
僕はたっくんの言葉を遮って潤んだ目でたっくんを見上げた。
「僕、一生懸命作ったんだけど、もしかして……不味かった」
たっくんは僕の顔を見て、何回か瞬いたあと、慌てた様子で首を横に振った。
「お、美味しいよ!」
「良かった! じゃあ、いっぱい食べてね!」
僕は満面の笑顔で、赤黒いチョコを差し出すとパクパクと食べ始めた。
(たっくん、チョロイよ……。チョロ過ぎて、僕は君の将来が不安だよ)
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