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第3話

「…………今年は、来てくれないのかな」 食堂のおばちゃん特製の、ハロウィン限定ドリンクを飲みながら、佐々木はミイラ男を待ち続けた。 いつもならもうとっくに食堂に来ている時間だった。それなのにまだミイラ男は佐々木の前に姿を見せない。 もしかしたら、もう卒業していないのかもしれない。そう思ったが、初めて会った時に同期生というのは確認済みだった。 「もしかしたら、今年は来てくれないのかも」 そもそも、佐々木とミイラ男の間に約束というものはない。だから、ミイラ男が佐々木の元に来なくてもおかしくはないのだ。 「お菓子、無駄になっちゃったな」 “Trick or Treat”と言われてもいいように、初めて会った次の年からお菓子をいっぱい用意した。それを食べながら、佐々木が一方的にミイラ男に何かを話す。そこで何度、自分がどれだけ木崎のことが好きか話したことか。 今年も、木崎の優しいところ、かっこいいところその他諸々ミイラ男に聞かせてあげようと思っていたのに。 「帰るか。このままここにいても、時間が過ぎるだけだし」 荷物を持って、佐々木が椅子から立ち上がった時だ。ドタドタと大きな足音をたてて、誰かが食堂に駆け込んできた。 驚いた佐々木は、足音のした方を向いた。するとそこには、苦しそうにお腹を押さえながら顔を上下に揺らしているミイラ男がいた。 「み、ミイラ男さん!?」 佐々木は、とっさに自分の持っていたドリンクを片手にミイラ男の元まで走っていた。ミイラ男の前に来ると、口辺りの包帯を無理矢理ずらして隙間を作った。そしてその隙間に、ストローをぶっ差した。 「ほら、俺の飲みかけですけど。飲んでください!」 最初、ミイラ男は佐々木の飲みかけのドリンクを飲むのを拒んだ。もしかして汚物扱いされてる!?と一瞬思ったが、どうやら違うらしい。 手に持っていたスケッチブックに、間接キスは恥ずかしいとミイラ男は書いた。 まず、汚物扱いされていないことにホッとした。そして佐々木は、ミイラ男は意外にも純情なんだなと思いつつ、水分補給をしてほしいのでそのままストローをぶっ差し続けた。 そうしたら、観念したらしいミイラ男がキュイキュイっとドリンクを飲み干した。 「…………ありがとう、生き返った」 どこかで聞いたことのある声。 ミイラ男が初めてしゃべってくれた。どんなことがあっても、どんなことをされても、ミイラ男はしゃべることはなかったのに。 「………しゃべった」 佐々木がそう言うと、ミイラ男はしまったというように手で口を隠した。 どうやら、自分でしゃべっているのも気づいていなかったみたいだ。

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