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祭
禊・ミソギ――一般的に世俗で汚れた身を川や海で洗い清めること――と言っても、この場合風呂に入るだけである。
社務所内にある古風な檜風呂で普通に体を洗った侑は、ゆっくり湯船に浸かる暇もなく浴室を出た。
ここからが侑の嫌いな時間である。
「アンタちゃんと食べてるの?食事の量を増やそうかしら…。なんか頼りないからもう少し太りなさい。和服は普通体型かぽっちゃりが似合うし」
侑の着物の帯を締めながら東雲がぼやく。
そんなこと説かれても。無茶を言う母親に侑は反論したかったが、絞られる感覚にウッと声を詰まらせた。
そして更に化粧である。これが中学生男子にとって最低最悪だ。
ぺたぺたと下地を塗りたくられるのも、ぱたぱた白粉されるのも拷問そのものだ。皮膚呼吸が出来ない。「しかめっ面しない!」と母に叱られた侑は気分だけ地蔵になろうと努めた。
「さ、仕上がったわよ侑。見てみなさい」
そして耐えに耐えた侑はやっと顔を上げる。
目の前に映る鏡には、帯紐以外全身黒い和服姿の少年がいた。長い黒髪のカツラを被り、唇に紅を引かれた様は少女にしか見えないが少年と言い張りたい。紛れもない自分なのだから。
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