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祭
巽が消えた後を追うように二人が向かった先、本殿の入り口には神主が控えていた。
ほのかな灯りの下、お互い恭しく礼をすると老齢の神主は侑に向かって布を掲げる。その上には銀に光る錫杖(シャクジョウ)が置かれていた。低頭し侑は両手で慎重に受け取る。
「侑、もう少しよ」
太い木の円柱に身を潜めた東雲は暗がりから拝殿の方を見る。四角く区切られた扉の向こうは外に通じており火が点いたように明るい。
その先の石階段の下では村長に引き続き巽が挨拶をしている。周りには、村中の人々が集まっているはずだ。
東雲が振り返ると侑の表情は微妙に強張り緊張していた。無理もないか、と母は今は娘に見える息子の冷えた左手――右手は錫杖を握っているので――を己の両手で包む。
「あったかー。母さんホッカイロみたい」
「ふふ、そうでしょ。…大丈夫よ侑。もう五回目なんだし、自信持ってやりなさい」
侑の強がりに東雲は親の顔で微笑み、息子も子の顔で「うん」と笑んだ。
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