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祭
巽の声が途切れる。尺八の響きが聞こえる。
――合図だ
東雲の励ましにより幾分リラックスできた侑は大きく息を吸い、吐き出し、一歩踏み出す。
導くかの如く敷かれたカーペットの上を拝殿へと歩む。急がず、右足を踏む度に錫杖の錫(スズ)を鳴らす。決められた所作を繰り返す。
拝殿を出て外の空気を肌に感じた。
つい広い視界を捉えそうになるが目を伏せて、極力何も映さないようにする。なまじ視力が良いだけに尚更だ。慶弥か祥か依那の姿を見た日には笑う自信がある。
石階段を降りる時も錫杖は鳴らし続ける。ゆっくりと地に足を着ける。
目の前に広がる直径五メートルほどの池。その前に設置された、護摩壇(ゴマダン)に似た簡易舞台へと進む。足袋越しの硬い木の感触が心地いい。
侑は両手で錫杖を持つと、その場で舞い始める。
結之村に古くから伝わる舞だ。足音を立てず静かに、雅に。
くるりと回ると着物の袖もカツラの髪もつられる。その黒い姿はさながら黒猫か。滑稽だろうな、と侑はいつも思っている。
しかし小動物だろうが何だろうが結構キツイ。和装が動きにくいのもある。
だが侑は顔に出さず踊りきった。シャン、と一際大きく錫杖を鳴らす。
――よし、ミス無しだ。たぶん
はてしなく確信は無いけれど、とりあえず残るは仕上げだ。いそいそと侑の元へやってきた巫女に錫杖を返し、懐から短刀を取り出す。
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