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暗闇
別に侑が養子なわけでも、異端なわけでもない。世代ごとに必ずそういう者が出るのだ。便宜上『未分化者(ミブンカシャ)』――選ばれた者は『分化者(ブンカシャ)』――と呼ばれている。
そして未分化者は、池の管理者としての責を自動的に担う事になる。
どういう仕組みかは不明だが、未分化者の舞と血は『武器を保つ』作用があるらしい。現に侑がかつて目撃した祥の槍は、ずぶ濡れにも関わらず錆び一つ無かった。
つくづく不思議だし、この平和な世の中で武器が何になるとも思うし、ていうかそもそもソレ銃刀法に引っ掛からないの?と侑は追求したい。
「せめて女装が無けりゃなあ…」
侑は腹の底から息を吐く。
眉唾のような武器伝承と女装は全く関係ない。なのに何故侑が女の格好をするのかというと、彼の前代まで全て女性が担ってきたからだ。侑は初の男の未分化者なのである。
侑が選ばれなかった時、村はちょっとした騒ぎになった。
物語にありがちな『災いの子じゃ』的な村八分には至らなかったものの、縁起を疎かにはしない村人たちは大変困惑した。すでに例の武器は、真偽そっちのけで守り神と無条件に信じられていたので朽ちらせるわけにはいかなかった。
だが、男子の舞ってセーフなの?神様怒っちゃわない?と、こんな具合で延々と議論されたのだ。
『ならば、女装で行おう。それで問題が起きれば儂が責任を取る』
答の出ない話し合いの末、根本的な解決になっていない苦肉の策でこう締めたのは実砂緒であった。
後半かっこいいけど何てこと言ったんだこの野郎、と侑は恨むに恨めない。相手が悪すぎる。
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