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翌日
侑が目を開けると、馴染み深い天井が視界一杯に映った。
自分の部屋だ。
走馬灯とは死の危機に瀕した際、今までの人生の経験記憶の中から助かるための情報を脳が自動的に検索するため起きるという。
確かに死にそうな目には遭った。だからこれも、もしかしたら走馬灯の一種なのかもしれない。侑は労なく昨晩の出来事を思い出した。彼の心情を考慮するなら、『思い出してしまった』が適切だろうか。
あの後、失神した侑が気付くと誰も居なかった。
拘束も目隠しも外され自由の身になっているものの、納屋には特殊な匂いと情事の痕が色濃く残っていた。
侑は一秒たりともそこに留まっていたくなくて、千切られた制服をどうにか着込むと引きずるように納屋を出た。
幸運だったのは、まだ祭の最中であった事。途方もなく長く感じたが時間はそれほど経っていないらしかった。
道端に落ちていた鞄を回収し歩いて見えてきた民家には、どこも電気は点いておらず人の気配もない。夜とはいえ、こんなボロボロの姿を村の人達には見られたくなかった。もちろん家族にも。
侑は同様に暗い我が家に辿り着くと、ふらふらの体に鞭打ち風呂に入った。暴漢に触られた所が不快で直ぐに洗い流したかった。
皮膚が赤くなり血がうっすら滲むほど擦る。下半身を動かす度に激痛が走る尻も長時間シャワーを浴びせた。
そして、ようやく少しスッキリした侑は倒れるように布団に沈んだのだ。
「さっいあく…」
それから現在に至る。
侑はベッドの上で頭を抱え唸った。カーテンの隙間から差す明るい陽の光がやけに鬱陶しい。
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