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翌日

怖かった。 痛かったし、惨めだった。ただ欲の捌け口にされることが屈辱だった。 侑はゆっくりと深呼吸をする。 神経が高ぶっている。目を強く閉じた。 ――忘れよう 侑は生来のんびり気質で怒りが持続しないタイプだ。 暴漢に対して当然ムカついてはいる。だけど多分通り魔的犯行であって、それならば突き止めようもない。村は辺鄙な所にあれど外部者も出入りし放題だ。 それに、彼とてプライドがある。一件は誰にも知られたくない。 ――運が悪かったんだ 消極的とも前向きとも取れる考えだがベストだと侑は信じる。 今日が休みで良かった。明日学校に行って、くだらない事で友人たちと騒げばいい。そうすれば全て元通りだ。暴漢の男もとっとと何処かへ逃げているだろうし、二度と会うはずもない。 今日は寝る。しこたま寝てやる。 くたびれたサラリーマンのような決意をして侑は布団を頭から被った。心地よい温かさに瞼が自然と落ちる。 しかし、前触れもなく落ちてきた一滴の水が邪魔をした。 それは侑の思考の中で最も冷静で理知的な部分だった。まどろんでいた侑はパッと目を開ける。 ――逃げていなかったら? 根拠はどこにもない。でも、まだ暴漢がこの辺に潜んでいたら。侑で味をしめて他の村人にも害を及ぼそうとしていたら。 村には依那のように若い女性も居れば、カイや慶弥のように非力な少年も居るのだ。 侑の鼓動が早くなる。急いで布団を剥ぐと部屋を飛び出した。相変わらず尻が痛いが負けじと階段を降りる。

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