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翌日
村長か駐在所か実砂緒か。いや、まずは身内である母親に告げるべきだ。
なにも真実である必要は無い。要は村の皆に警戒心を持って貰えれば良いのだ。怪しい不審者を見かけた、とでも言おう。
一階に到着した侑は早速母親を呼んだ。しかし探すも、返事も姿もとんと無い。
「母さんってば!いないの…あれ」
居間に通じる襖を開けた侑は、テーブルの上に置かれた手紙を見付けた。見覚えのある達筆な字は間違いなく母親のものだ。
そこには、祭の後片付けに巽共々行ってくる旨と追伸が書かれている。
少年はうっかり失念していた。次の日の後片付けは、往々にして祭の最後に呑んだくれる大人の仕事なのだ。
だが、それは良いとして問題は追伸の方。
『今日は外出しないこと』。そう語尾にビックリマークまで付けて強調されている。
「…どういうこと?」
放任とまではいかないが東雲は息子の行動を制限する人ではない。テスト前は別として。
母親らしからぬ文に侑が首を傾げたその時、玄関が強く大きく叩かれた。
「お~い侑、開けてくれ~」
突然の音に中学生は肩を跳ねさせるも、外からの声に安堵する。祥だ。
すぐに返事をして玄関を解錠すると引き戸を開ける。
思った通りそこには祥と、そして隣にはタレ目が特徴の女性。癖なのか両手を前で組み指をモジモジするのに合わせて、ショートボブの髪が揺れている。
彼女は、境木 瑠璃(ルリ)。祥と同じく二十代半ばで彼の奥さんだ。
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