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翌日
「すげー端的だなぁ。東雲さんらしいっちゃらしいけど。…あのな、昨日の祭でちょっとした騒ぎがあってな」
「え、まさか…ケンカ?」
おもむろに話し出す祥に侑は驚く。
いきなり不穏だ。ここの村人同士で信じがたいが、酒が入ると性格が変わる者もいる。一概に否定は出来ないだろう。実際前にも、ちょっとしたイザコザがあったのだ。
しかし侑の問いかけに「違う違う」と祥は右手をパタパタ振った。それに合わせて、隣で瑠璃がフルフル頭を左右に振るのが少し可笑しい。
「慶弥の荷物が無くなったんだ」
祥の宣う『騒ぎ』は、侑の最も思いも寄らない内容だった。盗難なんて、この村に一番似つかわしくない。
何かの間違いじゃないのかと思ったが、脳は祭の最中で慶弥と話した時の光景を甦らせた。小学生の小さな彼は、これまた小さな手提げのバッグを一つ持っていた。
「俺が大会で総合優勝して、宴会始める前だから…九時半くらいだったかな。慶弥がトイレ行ったらしいんだよ。荷物置いて。そんで戻って来たら既に、だ。アイツ境内の端っこで携帯ゲームやってたからなぁ。誰も見てなかったんだよ」
しれっと優勝自慢をする祥に中学生は突っ込まない。
それどころじゃないのだ。侑の顔色を見て悟ったらしい祥は明るく笑う。
「そんな深刻なツラすんなよ、お前が考えてるようなバカする奴いねえって。第一ガキの鞄だぞ?金も全く入ってなかったっぽいしな」
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