36 / 55
翌日
「あ、はよー」
祥らの訪問から二時間後。侑が電話を終えて客間に戻ってくると慶弥が起き上がっていた。
寝ぼけ眼の小学生は理解するのに時間が掛かっているらしい。三度ほど瞬きをして部屋をぐるりと観察し、挨拶する侑を見て、ぼっと赤面した。
「…熊が怖くて眠れなかったんだって?」
「うぜぇえ!!」
ニヤニヤ揶揄する侑を慶弥は一蹴した。再び布団に寝転び背を向ける。完全なる拗ねのポーズだ。
からかいすぎたか、と年上は反省し「ごめんごめん」と年下の頭に触れた。ポンポンと軽く叩く。
「大丈夫だよ。なんも怖いことないって」
慶弥の良いところは、人の言葉を無条件に信じられるところだ。
短所にもなりえるけれど侑にとって今は有難い。いからせていた肩が沈み雰囲気が柔らかくなる。「違うよ」と不服そうにボソボソ喋り始めた。
「俺、熊なんて怖くないし。バッグが無くなってショックなだけだし」
「うん」
この期に及んで否定する小学生を中学生は可愛いと思う。
「デジカメ入ってたのに…せっかく侑兄たくさん撮ったのに…」
前言撤回。本当に撮ったのか。
もし今ここにそのデジカメがあったら即刻データを削除するだろうと侑は確信する。
ともだちにシェアしよう!