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呉越同舟

図らずも状況は侑の望むところとなった。 夜になっても警戒は続き、部屋の窓からもあちこちにポツポツとした灯りが見える。熊にしろ暴漢にしろ、容易に出ては来られないだろう。 それは日が昇っても変わらず、だが学校に行かなければならない侑らは大人たちに守られて麓の停留所からバスに乗った。バスの運転手は護衛の集団に不思議そうにしていたが。 「侑兄さん、何ですかその本?」 そして放課後も時間を合わせた侑カイ慶弥の三人は、帰りのバスの中で揺られていた。 船を漕ぎ始める慶弥を確認して鞄から本を出した侑に、隣に座るカイが問う。すっかり回復した彼は今日は顔色がいい。 「んー、図書室で借りた」 めくり始めるページの紙は日焼けしていて相当古い。侑としては最新版の情報が欲しかったけれどコレしか無かったのだ。 野生動物の生態が詳細に書かれてあるものは。 「侑兄さん…まさかその細腕で熊を退治する気じゃ」 覗き見て内容を把握したカイが綺麗な形の眉をハの字にする。 「んなわけねーっしょ」と侑は横目で慶弥の様子を確認した。熊に敏感になっている幼い彼は気付かず眠っているようでホッとする。

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