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呉越同舟

結之村には畑がある。今が旬の野菜だけでなく小振りながら苺も生っているが、そちらの被害は皆無だ。 加えて慶弥の荷物が紛失した際、神社には数十という人が居た。いかに熊でも多勢に無勢、無闇に近寄らないのではないだろうか。 だが、本質的な問題はそこではない。 「え…つ、つまり、動物の仕業じゃないと仰りたいんですか…?」 カイの不安げな声に侑は思考を止める。 青白い隣の顔を見て、やはり言うべきではなかったと後悔した。脳内で己を殴る。 ――俺らしくねーなぁ 推測の域を出ていない、直感の範疇だ。ガラにもなく考え過ぎている。 自分があの夜襲われたもんだから思考が物騒になっているのかもしれない。忌々しい。 「ごめん、やっぱこの話ナシな。忘れてくれ」 ぱたん、と本を閉じる。 それで誤魔化されるほどカイは単純じゃないけれど気を使えるタチだ。 何か言いたげな雰囲気を醸しながらも「あ…侑兄さん、祥さんたちが迎えに来てますよ」と進んで話題を変えてくれた。有難く思いつつバスの窓から外を覗く。 いつの間にか着いていた麓の停留所にはカイの言う通り祥、そして夏目と薫が立っていた。大きく手を振る祥と薫が目を引く。

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