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呉越同舟
彼の存在を認識した侑はすぐにピンと来て身構えた。
「虎太朗さん」とカイが小さく呼ぶのが耳に入り、「お帰りなさいカイくん」と虎太朗が歩み寄ってくる。彼らは実父実子の関係でもパパ父さんとは言わず、名前でさんくん付けだ。
各家庭の事情なのでそれは別に良い。だが、カイの肩を引き寄せると虎太朗は祥から距離を取った。
「カイくん、こんな単細胞の近くに居てはいけない。アホが移ってしまう」
「は?誰のこと?」
「祥さんっ!」
始まった、と侑は身を乗り出そうとする祥を抑える。
どういう経緯かは知らないが、侑が物心ついた時からこの二人は仲が悪いのだ。主に虎太朗が喧嘩を売り、祥も気は荒くはないが長くもないので買ってしまう。
なぜ東雲はこのメンバーにしたのか。「まあまあ」と自称クッション役の夏目も二人の間に割って入る。
「それ以上やり合うなら巽さんか実砂緒さんに報告しますね」
クッション役、結局他力本願。合理的ではあるものの果たして夏目が居る意味があるのかどうか。
薫は我関せず、というか息子にしか基本興味がないので元から戦力外だが。
しかし、侑一人ではきっと犬猿の仲の大人を止められなかったので有難い。
実際、夏目の発言で火種の元二人は静かになった。侑と、そして虎太朗の横でオロオロしていたカイはホッと息をつく。
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