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適性
「うお、ちょっと本気でヤバいかもコレ」
侑は外の暮れ具合に小走りになる。
しかし近くて良かった。ギリギリ間に合いそうである。「あれ、境木の坊っちゃん?早く帰らないと」と傍らで畑仕事の片付けをしている壮年男性に注意され「はーい!すいませんっ」と手を振って答えた。
「ん?あれって…」
そうして、脇道に入った時である。隅の方に不自然な黒い塊が見えた。
視力だけは自信のある彼だ、目を凝らさずともそれが何か即座に分かる。時間は迫っているものの気になり近付いた。
「どうかしたの?依那さん」
少年の声に、しゃがんでいた黒いもの――依那は顔を上げる。二の句を接げぬ内に「うわーん侑~!!」と中学生に抱きついた。
突然の行動に瞠目するも、もともと依那は人にくっつきたがりなのでそれほど驚かない。思春期真っ只中の今は密かにどぎまぎしているけども。依那は巨乳で美乳の持ち主だ。
「えなっつー号が壊れちゃったよおぉ!」
微妙に夏目に対し後ろめたさを覚えていると依那はそう嘆いた。
『えなっつー号』とは確か依那が最近購入したバイクの筈だ。視線をさ迷わせた侑は、すぐ横にそれを発見する。黒いバイクなので周りと同化しかけており、彼女も黒いライダースーツを身に纏っているので目立たなかった。
が、気付いたら気付いたで存在感が凄い。某特撮ヒーローばりにゴツい。そしてこの名前は依那と夏目をかけ合わせたものだが、もはや少年は何も言うまいと思った。
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