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適性
そして、ド素人ながら少年が調べた結果。
ただのパンクだった。しかも前後両方。どんな運転をしたのか、というか何故分からなかった依那。散々調べてから気付いた侑も侑だが。
そして今は点った外灯の下、依那が持参していたたこ焼きを二人並んで食べている。「タイヤ替えればいいんだ~。ありがと侑、感謝感謝!あ、ねぇこれ一緒に食べよ!」といった具合に、御礼のつもりらしい。
補足すると依那は隣町にあるクレープとたこ焼きの販売店で働いており、これは売れ残りのようだ。豪快にマヨネーズやら鰹節やら青のりが好き勝手に盛り付けられているが間違いなく彼女自身の仕業だろう。
「ところでさ、侑は何でこの道歩いてたの?」
早々に二個目を爪楊枝で刺した依那がおもむろに訊ねる。その疑問も当然で、普通に帰っていたら通らないからだ。
口一杯に頬張っていた侑は『ちょっと待ってね』と目配せをする。このたこ焼きは一つがやたら大きい。「ナギんとこ寄ってた。家庭訪問のプリント渡しに」と急いで飲み下した彼はようやく口を開く。
数年前に学生だった依那は「あ、そんな時期か」と懐かしそうに笑った。そして「あの時は大変だったねー」とも。侑は首肯した。
『あの時』とは去年の今ごろ、ちょうど一年前の話。当時ナギは侑の隣のクラスであり、担任は大学を出たばかりの女性教師だった。
すでに生粋の引きこもりとなっていたナギをどうにかしたかったようで、なんと家庭訪問を毎日のように行った。
きっと悪気は無かったのだと思う。だがナギの様子は悪化し流石にブチ切れた実砂緒が担任に食って掛かり、東雲と居合わせた依那と侑が仲裁に入るという騒ぎになったのだ。
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