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適性

後を絶たない不祥事を起こす教師に比べると、彼女は立派な聖職者だったに違いない。数ヶ月後に退職してしまったけれど。 だが、それでもやり方は賛称できない。本人に会わせて下さい話をさせて下さいと、実砂緒にがなりたてる女性教師に侑は不快感を覚えた。ナギは大きな声や音が嫌いなのに。 普通に出来る多くの人はそれを『甘え』と言うだろう。実際、他のクラスの教師や生徒がナギを罵っているのを聞いた事がある。 そう言いたい気持ちは侑もぶっちゃけると理解できる。体調が優れなくても気分が乗らなくても頑張っている者は頑張っている。 だけど手足が震え顔色を失い、過呼吸に陥り動けなくなるナギを目の当たりにしたら、何も言えなくなる。 「…今の先生、大丈夫そう?」 爪楊枝を器用に口に咥え依那が窺ってくる。 真意を正確に悟った侑は「ん、深入りしないタイプだから」と頷いた。 「受験生だけど、本格的な進路の話は夏休み前の三者面談でするって言ってるし。顔合わせな感じかな…」 そこで侑は言葉を切り空の一点を注視する。 特に何を見ている訳でも誰かがいる訳でもなく、心は視界を認識していない。「ナギ、進路どうすんだろ」とポツリと呟いた。依那が最後の一個を断りなく口に入れる。

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