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第一章・侵入者。(1)
(四)
漆黒の闇が広がる室内で、ライオネルは突然、恐ろしい殺気を感じて黒い柩を飛び出した。同時に何かが壊れる大きな物音がして振り向く。
いかなる闇の中でも見渡すことができる優れた視力を持つ彼はブルームーンの目を凝らす。
するとそこには先ほどライオネルが横になっていた筈の柩が真っ二つに切り裂かれ、赤い目をした細身の青年がこちらを見据えていた。青年は人間でいうところの年の頃なら二十五歳前後だが、実際年齢は随分上だろう。
なにせこの闇の中でも発揮するこちらをしっかりと見つめる人間離れした視力と、赤い目はまず人間にはない。――それに、彼から放たれる人を惑わす甘い香り。これは昨夜も嗅いだことがある。一匹の悪魔を葬り去った時にいた、あの淫魔だ。
何故、淫魔がここにいるのだろう。
もちろん、ライオネルがいるここは街の繁華街でもホテルの一室でもない。ここはアパートや一軒家が連なる人間の住宅街だ。淫魔が好き好んで足を踏み入れる場所ではない。
況してや神の手先として闇に生きるヴァンパイアハンターのライオネルがいるここは、あらゆる魔族達から命を狙われる危険性がある。そのため、様々な攻撃から備え、身を隠すために選んだ場所だ。そう易々と見つけられる筈がない。
しかもヴァンパイアにとっての天敵である太陽の光を一切通さない地下室。見張り番の同居人もいて、玄関もすべて厳重に施錠してある――筈だ。
「お前は――」
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