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第一章・侵入者。(2)

 見覚えのある姿にライオネルが低い声を漏らす。 「へぇ、紛い物はぼくたち高等魔族とは違って太陽が天敵なんだね。今になってようやく活動を始めるんだ」  彼は身をくねらせ、細い腕で白のチュニックを捲し上げると胸板に乗っているぷっくりと膨れた蕾のひとつに触れる。赤い唇は甘いため息を吐き出しながら、指を咥えて喜々とした声音で話した。しかしその目は怒気を含んでいて、どう見ても自分を歓迎している様子ではない。 「何故ここへ来た」 「ぼくを虚仮(こけ)にした落とし前を付けに。お前を殺しに来た」  しっとりと濡れた声音で話す淫魔の回答に、ライオネルは眉間に深い皺を作った。 「――――」  ――たしかに、昨夜はこの淫魔にとって大切な食事の時間を邪魔した。淫魔にとって食事がどれほど重要なものかはヴィガーヴァンパイアであるライオネルも痛感している。  それというのも、人間で言うところの『食事』と自分達ヴァンパイアや悪魔族の『食事』方法は異なるからだ。  悪魔族は、人間の『恐怖』『妬み』『恨み』などといった負の感情を肥やしに生きる糧とする。彼らはただ人間に負という感情を植え付け、そのエネルギーを食らう。  しかしながら、人間の活力を吸い取る手段で食事をするヴィガーヴァンパイアは持ち得る魔力を駆使せねばならない。まかり間違えば人の命を奪ってしまう可能性があるのだ。

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