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第一章・侵入者。(3)

 けれども魔力の使い方さえ慣れてしまえば、ほんの数秒で大量の人間から少量ずつ活力を摂取することが可能だった。  それらに対して淫魔の食事手段は――といえば、一人に標的を定め、確実に精気を奪い取る。それだけに掛かる時間も体力も莫大だった。  こういったことから、ライオネルがこの淫魔に恨まれる理由も判らなくはない。しかしだからといって殺意を抱かれるほど恨まれていようとは予想だにしていなかった。  なにせライオネルは昨夜、この淫魔を哀れに思い、傷ひとつ付けずに去ったのだから――。  ――とはいえ、彼はライオネルの話が通じる相手ではない。ライオネルは唇を噛み締め、この状況をどう切り抜けるかを算段する。  こうして対峙している今も、淫魔から放たれる殺気が渦を巻き、地下室を冷ややかに覆い尽くしていく。相手が人間であればこの殺気のみで気を失っていることだろう。  ――いや、発せられているのは殺気だけではない。彼から香る甘い匂いはライオネルの思考を奪い取ってくる。おそらくこの淫魔はここに辿り着くまでの寸前にも数々の人間から精を奪い、食事を果たしたのだろう。捲し上げたチュニックから覗く柔肌には赤い痕跡がいくつも散っているのが見えるし、人々を惑わす甘やかな香りが漲っている。  ライオネルの本能は淫魔を欲している。

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