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第一章・侵入者。(4)
活力を奪う手段で食事をするヴィガーヴァンパイアにとって、これほど分が悪い相手はこの淫魔以外に他はいない。淫魔が放つ甘い香りを無意識的に取り込んでしまうのだ。
そしてさらに間が悪いことに、ライオネルは今の今まで眠っていた。身に着けているのはスラックス一枚のみ。当然手にする武器はなく、無様にも丸腰状態だ。
何とかしてこの最悪な状況を乗り切らねば。ライオネルが試行錯誤している今でも、淫魔は長身の剣を構える。
しかしいくらこの淫魔との戦闘をシミュレーションしても致命傷を受ける。
仕方がない。こうなれば今夜の悪魔狩りを諦めねばなるまい。――けれどもライオネルにとって、事を悠長に構えている暇はない。一刻も早く、何としてでも悪魔狩りを成功させ、神と交わした契約を果たさねばならない。自分にはそうしなければならない理由が十分にあるのだから。
――とにかく、今は淫魔に関わっている暇はない。
ライオネルは不利な状況に立たされ、小さく舌打ちをする。どうにも上手く事が運ばないことに苛立ちを募らせる。ライオネルの焦燥を感じ取った淫魔はにやりと笑みを浮かべ地を蹴る、まさにその瞬間だった。
「何や何や、何しとんねん!」
この地下室を遮っている鉄のドアが開いたかと思えば、甲高い少女の声が緊迫感のある空気を打ち破った。同時に土壁に取り付けられた燭台の明るい光が視界に飛び込み、闇に慣れていた目が眩む。
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