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第三章・Am (1)
(二)
「なんや最近、静かやな」
時刻は深夜を迎える頃。ダイニングキッチンで悪魔の傾向について談合していると、シンクレアは突然何の前触れもなく声を張り上げた。
それというのも、ここ最近淫魔 の姿を見ていないからだ。彼女は何故か立場上相反する淫魔に親近感を抱いている。親しみを込めて『アム』と呼ぶ始末だ。
活力吸血鬼 のライオネルにとって、淫魔は特に油断ならない相手であることには他ならない。しかも彼のおかげで呼び覚まされたライオネルの欲望は解消されないまま、拷問のような日々を送っている。だからライオネルにとってシンクレアが淫魔に対してそこまで肩入れする理由が判らない。
「――――」
――果たして彼が顔を見せなくなってからいったい何日が経過しただろうか。低級悪魔がライオネルを狙って街中で襲撃して以来だから少なくとも三日は経っている筈だ。これはライオネルにとってとても良い兆候だ。なにせこの季節にもなってわざわざ冷水を浴びなくて済むのだから。
なにせあの魅惑術のおかげでライオネルの欲望はコントロールするのに困難な状況になり、彼の息子はむくむくと育ち、手に負えなくなるからだ。
これで惑わされなくて済む。
「無言かいなそこ! アマデウスがおらんからやんって言うとこやろ!」
ライオネルが返事もせず、悪魔退治のため、いつもの如く隠しナイフをブーツの底に仕込んでいると、彼女は身を乗り出した。
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