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第一章・出会い。(3)
漆黒に染まった丸い頭と二つの胴体、蟻 のような姿。しかしそれは蟻というよりも巨大で、アマデウスと同じくらいの身長だろうか、一七〇センチほどはある。二つの胴体から伸びた無数の足は刃物のように硬く、鋭く尖っている。
昆虫とはあまりにも違うそれ。この世のものとは思えないほどおぞましい異形のそれを、人間は『悪魔』と呼ぶ。
そしてアマデウスの容姿は人間と酷似しているものの、目の前にいる異形のそれと同系列の存在だった。
アマデウスは巨大な蟻の姿をした悪魔の足下へ視線を向ける。そこには冷たい石畳の上で無惨にも鮮血に染まった肉塊が転がっていた。
今夜の獲物は上玉だったのに、折角の食事が台無しだ。
たとえ同族であったとしても、邪魔する者は許さない。アマデウスは真紅の目をさらに赤く染め、怒りを露わにした。
怒気を含んだ魔力が全身を覆う。それぞれの両指を軋ませ、臨戦態勢をとり標的を定める。しかしそれはあまりにもあっさりと縦真っ二つに引き裂かれ、消滅した。
怒りの矛先を失ったアマデウスは呆気に取られた。
(いったい誰が――)
同族を殺した相手を見据えれば、アマデウスが思っていたよりもやや遠巻きにいた。
相手は長身だ。肩幅が広い。薄闇の中でも男だということは十分に判る。その彼が重い靴音を立てて歩み寄ってくる。やがて街灯の下に出た時、男の容姿がはっきりと見て取れた。
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