18 / 209

第一章・魅了する肉体。(2)

 すっかり身動きを封じられた淫魔は、平然と受け答えをしているライオネルに向けて殺意を込め、睨みをきかせてくる。しかし今は淫魔に構っている暇はない。自分には神と交わした契約を守る義務があるのだ。  ライオネルは鋭い視線に無視を決め込み、シンクレアとの会話を続けた。 「ああ、うん。ここからずっと西に行くと大きな湖があるんやけどな、そこに巨大な蛇の悪魔が巣くうてるらしい」 「――判った」  ライオネルは頷くと、そのまま踵を返した。コートを翻し、目的地に向けて颯爽と歩いていく。 「おい! 貴様、どこへ行く!!」  目的地へと向かうライオネルの背後から淫魔が怒鳴り声を上げる。そうかと思えば、彼は雁字搦めに縛られていた縄を振り解き、軽い身のこなしで、シンクレアから瞬時に剣を奪い返した。鋭い切っ先をライオネルに突きつける。けれども彼は二度も同じ失敗を繰り返さない。ライオネルはひらりと身を(かわ)し、バルコニーから外へ出た。軽快な足取りをもって屋根から屋根へと移り、去っていく。 「待て! 逃すか!!」  しかしこのままライオネルを見逃すわけもない。淫魔もまた軽い身のこなしでライオネルを追いかける。 「何や忙しない奴らやなあ」  シンクレアの呆れた声を最後に、ライオネルは住宅地を離れた。

ともだちにシェアしよう!