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第一章・魅了する肉体。(7)

「こいつは――パーシング・サーペント」  その様を目にした淫魔はぽつりと呟いた。  ――突き刺す蛇(パーシング・サーペント)  たしかそのふたつ名は聞いたことがある。レヴィアサンと呼ばれる悪魔ではなかったか。  しかしその悪魔はかなりの強者で、この世界とは異なる別次元の悪魔界に存在している筈だ。  ――遙か古の時代。天界神、悪魔神らはそれぞれ、天界、悪魔界、人間界という三つの世界を造り上げた。そしてそれぞれが干渉し合うことのないよう契約を交わした。  もし、彼の悪魔が人間界にやって来ようものなら、人間界、天界、悪魔界の均衡は乱れ、宇宙そのものが破滅へと向かう。  何者かは判らないが、世界の均衡を壊そうとしている輩がいる。それは少なくとも、ライオネルが先ほど目撃した、祭服の男が関わっているに違いない。  ライオネルは、自分の目的こそ悪魔が凶暴化しつつある原因の調査と鎮圧化のみであると思っていた。  しかし、あの祭服の人物は単独で行動をしているようには見えない。もしかすると、裏で巨大な組織が存在する可能性がある。  ライオネルはここへきて事態は深刻さを増している事を知り、奥歯を噛み締める。  そんな中、蛇の悪魔は頑丈な口を開け、びっしりと敷き詰められたまるで鮫のような鋭い歯を剥き出しに向かい来る。悪魔はライオネルではなく、声を発した悪魔と同族である淫魔へと向かう。  そのことから、どうやらこの悪魔に視覚がないらしいことが判断できた。その代わりというのか、聴覚に優れているようだ。

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