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第一章・魅了する肉体。(8)
淫魔はほんの一瞬、怯むが邪魔をされたことに苛立ったらしい。魔力を注ぎ込み、鎮圧させようと試みる。
(しまった!)
ライオネルは舌打ちする。なにせ淫魔とは、例え相手がどんなに強者であろうとも、持って生まれた強力な魔力で魅了させることが可能だ。
もし、この悪魔が淫魔の言いなりにでもなれば、ただでさえ淫魔だけでも苦戦しているというのに、最早勝ち目がない。
固唾を呑み、奥歯を噛み締める。ただ指を咥えていることしかできない無力な自分が腹立たしい。
しかし淫魔は何故か悪魔を制圧できないようだった。
淫魔がどんなに魔力を込めようとも、悪魔は何をどうするわけでもない。ただ鋭い声を上げ、連なる歯を剥き出しにして淫魔へと向かう。
「なぜだ? なぜ魅了できない」
悪魔の姿にライオネル以上に驚いたのは淫魔だ。彼はルビーのように赤い目を見開き、困惑の表情を見せた。
舌打ちすると横へ跳び、悪魔の攻撃から逃げる。しかしそれでも悪魔は追撃の手を緩めない。淫魔の足音を追う。
「ぼくは淫魔 。誰も逆らえない絶対的な存在だ。いったいそれがどうして……」
地を蹴り、悪魔の攻撃を避けた淫魔は一本の太い木の幹に着地すると、そこを足掛かりにして漆黒の刃を手に悪魔へと攻撃を仕掛ける。強烈な一撃でおそろしく太い肢体を斬りつけた。
だが、どうだろう。悪魔の身体は強固な鱗で守られ、傷ひとつ付いていない。この特徴もまた、レヴィアサンそのものだ。
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