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第一章・魅了する肉体。(10)

 おぞましいほどの瘴気が、深手を負ったそこから赤い鮮血と入り交じって流れ出る。  魔族は悲鳴を上げ、長い身体を左右にうねらせて暴れ回った。  大きな口から流れ出る胃酸は大地に落ち、円を描いてあらゆるものを溶かしていく。何とも言えない鼻をひん曲げるほどの硫黄の焼けただれたような匂いが辺り一面に充満する。  このままでは悪魔から流れ出る胃酸と瘴気が空気中に分散し、民家に押し寄せて人々の命が危険に晒されてしまう。  ライオネルは悶え苦しむ悪魔の腹部に空いた風穴目掛けて銃口の照準を合わせた。そうしている間にも悪魔は耳を劈く声を上げ、頑丈な鱗を纏ったその身体で攻撃を仕掛けてくる。  ライオネルは不規則に動き続ける悪魔の攻撃を避けつつ、二発の銃弾を続けて放つ。  ライオネルが放った二発の銃弾は見事に悪魔の傷口を射貫いた。すると悪魔の身体に無数の亀裂が生じ、断末魔の声さえも上がる暇無く霧散した。 「――――」  薄闇には再び静寂が広がる。瘴気は根源が消えたおかげで大気から徐々にその姿を消していく――。  どうやら大惨事になる前に食い止めることができたらしい。ライオネルは張り詰めていた緊張の糸をほんの少し解きほぐす。小さく息を吐いた。  ――悪魔族の活性化。上位悪魔に酷似した悪魔。  この世界で得体の知れない闇が動く気配がある。  そして白の祭服を着た男はいったい何者なのか。  あの男が持っていた液体はどのような成分があるのか。  淫魔の力を(もっ)てしても凶暴化した悪魔を制圧できなかった理由とは何なのか。

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