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第二章・魅了する者。(1)

 (一)  悪魔にとって太陽は天敵ではあるが、それは上級クラスにとっては皆無である。 「ああ、私の可愛いアム。肌が荒れているわ。可哀相に、こんなに(やつ)れてしまって……。やっぱりここは空気が悪いのよ。食事だってきちんとできていないんじゃない?」  真っ赤なルージュを引いた唇が開く。母、ニヴィアはサファイアのように輝く美しい瞳を曇らせていた。  空が高く晴れ上がっている。アマデウスは母親のニヴィアとこぢんまりとしたカフェにいた。  窓から外を見やれば幼児が母親に手を引かれて横断歩道を渡る姿が見受けられる。  ――常日頃からある、ごくごく見慣れた光景。彼らにとっては自分達悪魔がこうしてすぐ側にいることさえも気づかないのだ。  アマデウスはテーブルに肘を突き、グラスの中でいくつもの小さな気泡が生まれ、消えいく様をただただ見つめていた。 「――――」  たしかに、彼女の言うとおり。ここは空気も悪いし食事だってまともに摂れていない。  その理由は至極簡単だ。人間界と上級魔族達が棲む悪魔界とでは措かれている環境が全く異なるからだ。  ――それというのも、人間界では悪魔界は闇ばかりで地獄のような所だと言われているが実は違う。  悪魔界は緑が生い茂る静かで豊かな国だし、悪魔達は王によってしっかりと手綱を握られているから悪さもできない。

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