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第二章・魅了する者。(2)

 対する人間界(ここ)の空気は――といえば、排気ガスと人間の負の感情。そして好き勝手に動く悪魔達の瘴気(しょうき)が渦を巻き、空気は汚れきっている。アマデウスの肌が荒れるのも無理はない。  そしてさらに最近のアマデウスは――といえば、食事が美味しいと感じることができなくなってしまった。  ――原因は知っている。 (先日出会った、あの紛い物のせいだ)  思い出しただけでも反吐が出る。  アマデウスは憎々しげに唇を噛みしめた。  鋭く冴えたブルームーンの目。長身で引き締まった身体は洗練されていて、完璧な肉体美をもっている。さらには上級悪魔と戦闘を繰り広げられるほどの魔力と腕前を持っていた。  しかしそれだけではない。  先日の夜を思い出したアマデウスは人差し指で小振りな唇をなぞった。  あの紛い物とのキスは刺激的で、今までに味わったことのない甘美なものだった。  アマデウスは淫魔(インキュバス)だ。これまで生きてきた数百年という月日では常に自分が彼ら全てを支配してきた。彼らがアマデウス自身を欲するならば、何をするにしてもアマデウス本人に許可を得なければならない。自分を抱きたいと思うのならば尚のことだ。  淫魔とは性を司る。故にそのことに関しては他の誰よりも長けており、神でさえも誘惑することが可能だ。  現に、このカフェにいる男達の視線はニヴィアとアマデウスに釘付けだ。彼らは、ある者は深いため息をつき、ある者は舐め回すような視線を向けてくる。

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