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第二章・魅了する者。(3)
アマデウスは母親のニヴィアと同様、悪魔の中でも数少ない稀少な淫魔である。母、ニヴィアは腰まで波打つブロンドの艶やかな髪に濡れたような長い睫毛。小さな鼻と尖った顎。魅惑的なふっくらとした赤い唇に白い肌に華奢な身体。アマデウスは母親譲りの美しい容姿をしていた。
この絶対的美貌と魅了する力がある自分達には誰も逆らえない。
――それなのに……。
あれはアマデウス自身に許しを乞うこともなく、簡単に自分を組み敷いた。しかも、である。淫魔の自分があろうことか抱かれてもないのに果ててしまう始末だ。
こんなことが許される筈がない。
(腹立たしい)
アマデウスは強く拳を握り締める。
当時を思い出せば憎悪が込み上げてくる。
しかしそれだけではない。下肢はたちまち熱を持ち、身体が疼いて仕方がないのだ。
あの洗練された美しい紛い物とより長いキスを愉しみたい。
逞しい腕に抱かれ、快楽の波に攫われたらいったいどんな心地がするだろう。
あれだけの引き締まった肉体美だ。きっと彼自身の欲望もまた雄々しいに違いない。貧弱な人間共とは違う欲望に貫かれたなら、どれほどの食事が愉しめるのか。
噛み締めた唇からは本人の意思とは無関係に薔薇色のため息が漏れる。
――先日の強烈な快楽をより深く味わいたい。
少なくともそう思っている自分がいる。忌々しいことに、それがまたアマデウスの憎悪を増幅させる原因になるのだ。
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