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第二章・魅了する者。(6)

 よって、アマデウスの食事は人間の精のみに限られていた。しかし彼ら人間は最も貧弱で魔力を持たない。故にアマデウスは常に食事を必要とする。けれども自分が食事をするためには体力も必須だ。その体力も今、限界に達そうとしていた。  それを見かねたニヴィアが、たびたびこうして人間界に降り立ち、アマデウスの元へ足を運んでくれるのだ。  ――ニヴィアとアマデウスは同じ種族だ。親子としては当然のことながら血の繋がりも濃く、魔力の気質も全く同じだった。それだけに食事方法は簡単で、こうして少し接触しただけで体力も回復し、食事を済ませることが可能だ。  アマデウスにとって、母ニヴィアの存在が生きる糧そのものだ。もちろん、ニヴィアはアマデウスに体力を明け渡し、栄養を与えるわけだからアマデウスと会う前よりもずっと力は弱まる。  ――しかし彼女の夫を忘れてはならない。アマデウスの父にしてニヴィアの夫ルジャウダは悪魔界の王である。彼の魔力は底知れぬ。神々の長、ウラノス神と同等の力を持った悪魔だ。ニヴィアがルジャウダと食事を果たせば体力も魔力も増幅される。  彼ら二人は宿縁としてこの世界に生まれた絶対的な唯一無二の存在だった。ニヴィア妃とルジャウダ王。彼らの行く手に阻む者は何も無い。  アマデウスの目標は常に両親だった。  いつかは自分も母のように気高い存在になって、父のように力強く雄々しい男性(ひと)に巡り会いたい。敷いてはその男性の子を宿したいと、未だ見ぬ相手を想い、身を焦がしてもいた。

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