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第二章・魅了する者。(7)
「――いっそのこと私達がギアレン達の復讐を……」
ニヴィアが口を開けば、アマデウスは直ぐさま首を横に振った。
「いいえ、父上や母上の手を患わせたくありません。このことが公になれば、国が乱れ、悪魔界だけではなく人間界、天界の均衡すら破られてしまいます」
王自らが好き勝手に動く事は許されない。兄達が殺されたことを民衆に知られれば、王の威厳は地に落ちる。絶対的存在だと疑わなかった王に、彼らは不信感を抱き、身を潜めていた不義の輩が反乱を起こしかねない、極めて危険な状況になってしまう。
だからアマデウスは嫡男として悪魔王に成り代わり、兄達の死の原因を探っていたのだ。そしてここへ来た理由はもうひとつ。
「もし、本当に兄様達が殺されたのならば、嫡男であるぼくが兄様達の無念を晴らしてやりたいんです」
――アマデウスを誰よりも可愛がってくれた兄達。その兄達の無念を晴らしたい。アマデウスの目に再び燃ゆる炎が灯る。
「そう……だったわね。でもどうか無茶はしないで。忘れないで。私はずっと貴方の味方よ、いいえ、私だけじゃないわ。夫ルジャウダだってそう思っているわ。彼はいつも貴方のすること為すことに無関心を装っているけれど感情を表に出すのが苦手なだけなのよ。いいこと? 私達はね、万が一にでも貴方に不穏な影が覆い被さりそうになるのが判れば、悪魔界そっちのけで腰を上げる覚悟はあるのよ、可愛いアム」
「ありがとうございます、母上」
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