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第二章・魅了する者。(5)

 長男ギアレンは悪魔界の視察中に崖から落ち、次男グスタフは早朝、突然の心臓発作。そして生まれつき身体が弱く、床に()せていた三人目の兄ダグラスもまた、命を落としていた。  残ったのはアマデウスただひとり。  立て続けに起きた兄達の死はあまりにも不可解だ。中でもギアレンは父親譲りの強靱な肉体と魔力を持ち得ていた。その兄が崖から落ちて命を落とすだろうか。誰かに暗殺されたとしか思えない。  ひとりきりになってしまったアマデウスは、近年悪魔が凶悪化していることを知り、兄達の死と何らかの関係があるのではないかと、犯人を捜すためこの人間界にやって来たのが一年前のことだ。  しかし、兄達を殺めた相手の情報は一向に手に入らない。その上、アマデウスは淫魔の母と離れたことで自分で食事をしなければいけないことに悪戦苦闘する日々が続いていた。  ――淫魔は絶対的な存在ではあるが、とてつもなくがあった。それは魔力ある者に抱かれてしまえば子を宿してしまう危険性があるということだ。  さらには淫魔の誘惑は悪魔達にも有効だ。アマデウスは同族からも狙われ続ける。自分は王族だ。夫を選ばずに抱かれ、魔力を体内に注がれてしまえば(はら)む可能性がある。そうなれば最後、悪魔王である父の威厳が損なわれてしまう。結果、野心多き悪魔達が威厳を無くした王へ反乱を起こすのだ。

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