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第二章・実は仲が良い。(1)

 (三)  まるで井戸の底から覗き込むように、一切の光を失ったダークブラウンの目が力なく床に横たわるライオネルを見下ろす。  人間の顔を被った闇の獣は口を大きく開く。彼は鋭い犬歯を見せつけると、首筋に噛み付いた。  身体はまるで炎に炙られているようだ。激しい痛みと痛みが全身を駆け巡る。  ライオネルは、はっとして目を見開けば、そこには闇が広がるばかりだ。じっとりと汗ばむ身体をほんの少し動かしただけでも壁にぶつかる。身動きができない漆黒のそこは自分の柩だ。一気に現実へと引き戻されたライオネルは深い深呼吸を繰り返し、乱れた息を整えた。  いつもながら目覚めは(すこぶ)る悪い。  あれから十六年もの歳月が経った。――にもかかわらず、ライオネルは未だ三〇歳の若々しい肉体のまま、何ひとつ変化がない。化け物になった当時の出来事を思い出せば深い怒りと悲しみが今でも押し寄せ、心を蝕む。  ライオネルをヴァンパイアに変えたのは、本来ならば自分達家族を守るべき立場であった父親だ。妹のコルベルが生まれてから一〇年後の春。母親は流行病にかかり、この世を去った。それから父親はとある女性と接触する。彼女はヴィガーヴァンパイアで、父親は見事にその仲間入りを果たした。  そして彼は手始めに長男のライオネルを同族にしたのだ。

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