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第二章・蝿の王。(3)

 母ニヴィアと別れてどれくらいの時間が経っただろう。入り組んだ路地の石畳を歩く中、丁度死角になったところでシンクレアが動いた。彼女は白猫へと姿を変えた。紛れもなくあれこそが彼女の実態化した姿だ。こうして彼女は神々の目となり、耳となって情報を得るため、日々動いているのだ。  しかし実態化したのがいけなかった。祭服の男もまた、シンクレアの尾行に気が付いていたようだ。  アマデウスが祭服の男の力の気質を探ったところによると、彼はどこにでもいる一般人(ユマン)だ。  ――ということは、余程後ろ暗い何かがあるのか、周囲に注意を払っているようだ。やはり彼らには探られて痛い腹でもあるようだ。  祭服の男は白猫シンクレアの首根っこをひょいと掴んで持ち上げると、左右に折れる路地を縫うようにして歩いて行く。捕らわれた腕の中でシンクレアのか細い声が聞こえる。男の腕に噛み付いたり引っ掻いたりして抵抗するものの、相手は痛みを感じないのかびくともしない。  シンクレアの二の舞になってはまずい。アマデウスは引き続き、細心の注意を払って追跡する。  ――どれほどの距離を歩いただろう。さらに歩けば傾斜がかった一本道に変わる。赤や青といった色とりどりの屋根が連なっていた街並みはやがて少しずつ減り、緑が目立ってきた。塀が消え、大振りな木々が視界に広がる。すると教会の大門が見えた。

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