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第二章・蝿の王。(5)

 会堂の内部には、外部よりもさらに人影はない。静かな空間が広がり、所々から太陽光が差し込んでいる。そこは兄達の死と関係しているような荒んだ気配をまるで感じさせない。  天井はまるで船底を思わせるような折上天井で、広い空間が施されている天井はより高く見えた。入口から伸びる朱の身廊は幅があり、窓に嵌め込まれた緑を基調とした美しいステンドグラスは太陽の光の反射によって身廊に写す色を変える。木製の四角形の柱頭は茶褐色で、時代を思わせる。極めて清らかな空間だった。    アマデウスが持ち前の嗅覚を以て血の臭いを辿って行けば、身廊の先にある祭壇に目が止まった。白の祭服に身を包んだ二人の修道士がいた。どうやらこの礼拝堂にはたった二人しかいないようだ。他に人の気配を探っても彼ら以外感じ取れない。  白の祭服に身を包んだ一人は猫のシンクレアを捕まえた男だろう。フードを被っていて判らないが、袖に血液が付着していたことから判断できる。もう一人の男もやはりフードを被っている。しかし背は頭ひとつ分抜きん出ていてずっと高い。 「これが教皇がおっしゃられていた、災厄をもたらすという悪魔でしょうか。人から猫に変化しました。なんだかとても気味が悪いです」  猫の姿に変身したシンクレアを捕まえた男は、長身の男に向かって一礼するとそう口にした。 「その通りだ。さあ、私が預かろう」  発する声の質はバリトンで、地響きのように重く響く。長身の男が手を伸ばした。

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